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「………」

 よく知る気配に、浦原は細く笑った。

「どうしたんですか、夜一さん?」

 窓の外。

 鉄格子から差し込む光が逆光になって、その表情はよく見えない。

 夜一は眉を寄せた。

 浦原は第一級罪人として、捕らえられ。

 中央四十六室により、その処罰は処刑と決まった。

 四大貴族が一、四楓院家の当主として、叛意の書簡を届け出したが。

 聞き入れられることはないだろう。

「………今宵、寅の刻に参る。」

 浦原を処刑させないためには、逃がすしかなかった。

「………」

 俯いたままの浦原の表情はよく見えない。

「…すいませんねぇ、ほんと………」

 自嘲気味に笑った。

 夜一は眉を寄せた。

 が自分と同じ立場であったなら、きっと同じように浦原を逃がそうとするだろう。

 そんな事をすれば、四大貴族の一角を追われるは確実。

 軍団長の位も剥奪され、尸魂界にはいられない。

「何を謝る。 儂とおぬしの仲じゃろう…」

 夜一の胸に引っかかっているのは、その事ではなかった。

 自分以外に、中央四十六室へ書簡を提出した者がいるとの話を小耳に挟んだのだ。

(おそらくは………)

「夜一さん?」

 浦原が首を傾げた。

 その声に、我に帰る。

 じっと、浦原を見据えた。

 自身が作り出した霊圧を封ずる拘束具に、縛られている。

 痛ましい…

 技術開発局を設立したのも、のためだろう。

 そして、崩玉も… 義骸も… のため。

 夜一はわずかに目を伏せた。

 を大事に思っているのは、浦原だけではない。

「…何か… 言って欲しかったのぅ………」

 少し、淋しかった。

「すみません、夜一さん………」

 罰の悪そうに、浦原が首を竦める。

 浦原の声に、夜一は小さく首を振った。

「…約束の時刻に、迎えに来る。 尸魂界には戻れぬだろう。 その覚悟はしておけよ。」

「………」

 遠ざかる背中を見送って、浦原は目を伏せた。

 尸魂界に戻れないと言うことは、二度と、に会えないという事である。



『…何もしないでくれ…』

 小さく首を振りながら、は震えていた。

『………もうよいのだ… お前の望むままに生きてくれ…』



「アナタのために… 生きるって決めたんですよ…」

 力なく呟いた。

 を思えばこそ、大人しく処刑されるわけにはいかなかった。

 鉄格子の窓の外。

 燃える様な夕日がゆっくり沈んで…

 徐々に夜の闇が広がり始めていた。


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