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 うっすらと、目を開けた。

 見覚えのない天井…

 一体ここはどこだろう?

「…気が付いたか。」

 突然の声に、視線を投げた。

「…浮竹………」

 白哉は目を丸くした。

「ここは四番隊の救護詰所だ。 四日程ずっと意識不明だったんだ。 気分はどうだ?」

 浮竹の声に、徐々に薄らいでいた記憶が鮮明になって行く。

「私は… 敗れたのだな………」

 呟いた。

 卍解で戦おうなど、やはりまだ早かった。

 浦原に敵うはずはないと、知っていたのに…

「浦原は…?」

 無事に、尸魂界から逃げただろうか?

 白哉の声に、浮竹はわずかに目を伏せた。

「逃げたよ…」

 浮竹の声に、安堵した。

 だが。

「四楓院夜一が、手引きをした事になっている。」

 続いたその声に、言葉を飲み込む。

「何… だと…?」

 浦原を逃がしたのは自分だ。

 何故、夜一の名がそこで出たのだろう。

 グッと、体に力を入れた。

「オイ、無理をするな、白哉…!」

 浮竹の制止の声を無視して、白哉は上体を起こした。

「どう言う… ことだ…?」

 白哉の声はわずかに上擦っていた。

「浦原を逃がしたのは… 私だ…!」

「滅多な事を言うな、白哉。」

 嗜める声は、少し厳しかった。

「封霊主への罪滅ぼしのつもりなら、止めろ。 そんな事をしても、彼女は戻らない。」

 浮竹の言葉が耳に痛い。

「彼女… を想う気持ちは、お前も浦原も、夜一も同じなんだ…」

 浮竹がじっと白哉を見据えた。

「お前が夜一を護ろうとしたように、夜一がお前を護ったんだ。」

 すでに脱獄していたにも関わらず、牢へ赴きその姿を目撃させ、恰も浦原を逃がしたのは自分であるかのように見せた。

 白哉が罰を受ければが哀しむ…

 そう思っての行動だろう。

「浦原処刑の情報は隠蔽された。 追放罪と言う事で発表されたよ。 夜一は軍団長の座を剥奪。 その位から永久追放された。」

 白哉が眉を寄せた。

「そんな顔をするな。 浦原を止める為とは言え、許可なく抜刀した。 お前も軽い罰を受ける。」

「私は…!」

 何か言おうとした白哉を軽く睨んで、浮竹はそれを制した。

「滅多な事を言うなと言ったはずだ。 …これでいいんだよ、白哉。 尸魂界を去った二人の気持ちも汲み取ってやれ…」

 四番隊の者を呼んで来るからと、浮竹は席を立った。





『…貴方の剣… 確かに、アタシの胸に届きましたよ…』

 返り血を浴びたのだろう。

 浦原はわずかに血に濡れていた。

『それと… アレ、嘘ですよ。 アタシがさんを抱いたってやつ。』

 紅姫を鞘に収めて、浦原が白哉を見据える。

『ちょっと… 貴方をいじめたかったんです…』

 浦原は目を伏せた。

『さようなら。』

 踵を返す。

 少し歩いて、浦原は足を止めた。

『もしも…』

 肩越しに、視線だけを投げる。

さんを想う貴方の気持ちが変わらなければ…』

 浦原は目を細めた。

『…奇跡ってやつが、起こるかもしれませんね………』





 白哉は強く拳を握った。

 浦原の処刑は防いだが… 夜一を罪人にしてしまった。

 白哉自身は、卍解して浦原等を止めた英雄として、周囲に認識されている。

 己のケジメにために戦った挙句、見事なまでに敗れ… 護られた。

「………」

 白哉は唇を噛んだ。

「私は………」

 行き場のない悔しさだけが、胸に残った。


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