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「日番谷君のバカ!! 最低!!!」

 いつも温厚な雛森。

 朝一番に、その罵声が飛んだ。

「誤解だ! 落ち着け、雛森!! 俺は何もしてな…!」

 日番谷の慌てた声が聞こえる。

「問答無用!!」

 雛森の怒鳴り声で、がうっすら目を開けた。

(何の騒ぎだ、朝っぱらから………)

 十番隊の隊長室。

 朝から修羅場である。

「…どーした、日番谷?」

 眠そうなの声に、日番谷が怒鳴る。

「バカ野郎! テメエのせいだ!!」

 その声に、が首を傾げる。

「? 私は雛森に怒鳴られるような事はしてないぞ?」

「そうよ! ちゃんじゃない! 悪いのは日番谷君よ!」

 雛森が斬魄刀を抜いた。

「弾け、飛梅!!」

ボッ

 雛森の声に反応するように、霊圧弾が飛ぶ。

 さすがにも息を飲んだ。

「こらこら… 穏やかじゃないな。」

 いつの間に移動したのだろう。

 霊圧弾を掌で受け止めて拡散させ、雛森の斬魄刀まで叩き落して、が目を丸くした。

「どうした、雛森?」

 自分より少しだけ大きい、俯いた雛森の頭を撫でる。

「…日番谷君に、襲われたんでしょ?」

「は?」

 雛森の声に、は間抜けな声を上げた。

「アタシ、ちゃんが心配で… だからココに寄ったのに………」



『おはよう、日番谷く…!』

 元気にドアを開けた雛森の目に飛び込んだのは。

 一つの布団で一緒に眠る日番谷との姿。

『ふぁ… 雛森か?』

 小さく欠伸をしながら、日番谷が体を起こす。

グニャ

 右手に柔らかい感触。

『うわぁ!』

 日番谷は慌ててそこから離れた。

『日番谷君のバカ!! 最低!!!』



 そして、今に至る。

 はぽりぽりと頭を掻いた。

「やっぱり、アタシも一緒に泊まった方がよかった… でも、日番谷君がそんな事………」

「俺は何もしてねえ! の着物が肌蹴てたのは、そいつの寝相が悪いからだ! 不可抗力だ!」

 二人の言い分を聞いて、は小さく息を吐いた。

「雛森、私は大丈夫。 何もされてないよ。」

 と、雛森ににこりと笑う。

「本当?」

「ああ、本当だ。 日番谷にそんな甲斐性はない。」

「………」

 雛森を宥めるためにがそう言っているのはわかるが、そんな言われ方をすると少し腹が立つ。

 雛森はしぶしぶ納得したように、小さく頷いた。

「さ、五番隊に戻れ。 お前が遅れると、藍染が心配するだろう。」

「…ん。 またね、ちゃん。」

 に促されて、雛森は十番隊隊長室を後にした。

「さて。」

 は振り返った。

「迷惑かけたな、日番谷。」

「まったくだ!」

 のほほーんと言うに、少しいらいらしたように日番谷が怒鳴った。

「で、大丈夫なのか?」

「何がだ?」

 日番谷に突然訊ねられ、は首を傾げた。

「飛梅を弾いただろ。 怪我がないかって聞いてんだ。」

「大丈夫だ。 怒ってはいたが殺意もなかったし。」

 が続けた。

「私も一つ聞いてもいいか?」

「何だ?」

 茶を入れながら、日番谷が聞く。

「(胸の)感触はどうだった??」

ぶっ。

 突然のの問いに、日番谷は飲んでいた茶を吹き出した。

「ゴホッゴホ……… てめぇ…」

「自分ではよくわからないんだが、やはり柔らかい物なのか?」

 そんな事を言いながら、は自分の胸に手を添えていた。

「俺じゃなくて朽木に聞けよ!」

 突然出た第三者の名。

 は少し眉を寄せた。

「白哉に? 何故だ?」

「そう言う関係なんじゃねえのかよ? 俺は男女の色恋沙汰とか、そんなのはまだよくわかんねーけど。」

 湯飲みに再び茶を注いだ。

「ほら! お前もコレ飲んだら仕事に… って、オイ?」

 いつの間に消えたのだろう。

 の姿は既になかった。

「…?」

 まずい事を言ったのだろうか。

 日番谷は小さく溜息を吐いた。


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