「………」 浮竹十四郎が、ゆっくりと息を吐き出した。 四日前。 双極の丘で、白哉を見つけたのは浮竹だった。 『浦原…!』 浮竹の声を遮るように、浦原は首を竦めた。 『…すみませんねェ… せっかくの忠告をムダにしてしまって。』 細く笑って、浮竹を見やる。 その瞳は果てしなく冷たい。 『アタシを捕らえますか?』 心を問われている気がするのは何故だろう。 浮竹は唇を噛んだ。 『…もっと、別の方法があったんじゃないか…?』 は封印され。 浦原は秘密裏に処刑されようとしていた。 それを阻もうと、四大貴族が一・四楓院夜一と。 朽木家次期当主・朽木白哉が、中央四十六室当てに書簡を届け出していた。 だが中央四十六室の決定は、変わることは無い。 が封印される事が決まった時だって、そうだった。 白哉は必死に、それを阻もうとしていた。 理不尽さを問い、突き詰め… そして、己の力で少女を助けようと、一人卍解の修行もこなしていた。 だが、間に合わなかった。 それが、結果。 そして、その結果だけが全てである。 『お前たち二人が傷付け合って、彼女が喜ぶとでも思ったのか…』 浮竹の声に、浦原は首を竦めた。 『男にはですね、浮竹さん… どうしても、退(ひ)けない時ってやつがあるんですよ。』 浮竹の側に倒れている、白哉を見据える。 『頭が固いとばかり思っていましたが…』 わずかに目を伏せて、口元だけで細く笑う。 『その不器用さが… 少し、羨ましいですねぇ…』 双極の丘に風が吹いた。 『喜助…!』 背後の声に振り返る。 『どーも、夜一さん。』 その場に現れたのは夜一だった。 そろそろ、行かねばならぬ時間だ。 『アタシを捕まえる気がないなら、ここから離れた方がいいっスよ。 いらぬ疑いがかかるやも知れませんから。』 浦原が踵を返す。 『あ、そうそう。』 肩越しに、頭を動かして視線だけを向ける。 『白哉さんに、『余計なことはするな』って、伝えておいて下さいね。』 一歩、歩み出す。 『それでは。 お元気で………』 どこからともなく現れた穿界門。 それに飛び込む直前。 『アタシ… 貴方の事、嫌いじゃなかったですよ…』 浦原が微笑んだように見えた。 浮竹はそのままの足取りで、ある場所へ向かった。 尸魂界の最下層。 封霊主の間である。 「…俺の声が聞こえているだろうか。」 水晶の中の少女を見上げて、ゆっくり口を利く。 「これで、良かったのか?」 浮竹の瞳が揺れた。 浦原と夜一は尸魂界を去り、白哉は己の無力さを思い知らされたはずだ。 きっと、悔しい思いをしているだろう。 「真実を話して、白哉を厳しく罰するべきだろうか? だがそうすれば、夜一の気持ちを無駄にしてしまう。」 皆、己が思う通りに動いたのだ。 「…善も悪もない。 皆、同じだけ悩み苦しんでいる…」 ぐっと、強く拳を握った。 「何も出来なかったのは… 俺だ…」 浮竹はと面識はない。 だが。 白哉や浦原、そして夜一など… よく知る者が、思い悩み懸命に戦ったと言うのに、それを見ていながら何一つしてやれなかった。 水晶の中の少女。 まるで眠っているように穏やかなのに… もう、二度と… 目覚める事はないだろう… 「俺は… お前を忘れないよ。」 己の全てを捨てて、自ら中央四十六室の意のままに封印される事を承諾した小さな少女。 「そして、二度と… お前のような哀しい犠牲者は出さないと、ここに誓おう。」 気のせいだろうか? 水晶の中で、少女が微笑んだように見えた。 |