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ザン

「ま、そんなもんだろ。」

 十番隊の隊士が虚を斬ったのを見て、日番谷は小さく頷いた。

 辺りの霊圧を探る。

(もう何もねえか。)

 今日は新しく十番隊に配属された隊士達を連れて、虚退治にやって来ている。

 隊長自ら同行する必要はないのだが、日番谷は時折こうやって新入隊員達の面倒を見ていた。

「よし! 帰るぞ! 今回の任務で何か思うことがあった奴は、後日書類にまとめて…」

「た、隊長っ!!!」

 尋常ではない、突然の声。

「どうした、真田…っ!?」

 日番谷は振り返った。

 そして、言葉を飲み込んだ。

「…いつの間に?」

 気付かなかった。

 背後に、巨大虚(ヒュージ・ホロウ)が迫っていたなんて。

「うわぁあああ!!!」

 隊員達の悲鳴で我に返り、日番谷は声を上げた。

「逃げろ! 俺がどうにかするから、てめえらは安全な所まで…!!!」

 そこまで言って、言葉を飲み込む。

「なっ…?」

 目を疑った。

 巨大虚に、囲まれている。

(嘘だろ? こんな数を相手に、気付かなかったなんて…)

 日番谷は歯を食い縛った。

 自分一人ならともかく、新入り隊員達を全員助けられるだろうか?

「クソ! 動くなよ、てめえら!!」

 日番谷は斬魄刀を抜いた。

「霜天に坐せ、氷輪丸!!」

 抜刀したはいいが、全力で氷輪丸を振るえば、隊員達を巻き込みかねない。

「ちまちまするのは嫌いだが、そうも言ってられねえな。」

 一匹、また一匹と、確実に頭を潰して行った。

「うわぁあああ!!」

 部下の悲鳴に、振り返る。

「バカ野郎! 動くなって言っ…!!!」

 一匹の巨大虚が、日番谷の一瞬の隙を付いた。

 空中に浮いていた日番谷の小さな体を、巨大虚の長い尾が地面に向けて叩き付ける。

「た、隊長!! うわぁああ!!」

 日番谷へ駆け寄ろうとした隊員を、虚が襲った。

ガギッ、ン。

 食われたと思いきや、何の痛みもない。

 隊士は恐る恐る目を開けた。

「…俺の部下に、手出しはさせねえ………」

 部下を庇い、頭から突っ込んできた虚を氷輪丸で受け止めて、日番谷が言った。

 虚が、にやりと笑った。

「なっ…?」

 日番谷が構えるより先に、その爪が、日番谷の胸を貫いた。

「…んの野郎!!」

 辛うじて斬魄刀を振るうが、その一撃は浅く、致命傷へは至らない。

「クソッ… 油断した… こいつ等霊圧を消せるのか………」

 今、こうして戦っていても、全く霊圧を感じなかった。

 虚は後から後から沸いて出る。

「うっ、うわぁあああ!!!」

 隊員が悲鳴を上げる。

 虚が腕を振り下ろした。

「だらしないねぇ、男だろ?」

 この場にあるはずのない、第三者の声。

 日番谷は目を疑った。

 一撃で、虚を薙ぎ倒すそれは間違いなく。

「…。」

 はにこりと笑った。

「すまんな。 遅れた。」

 日番谷にそう言って、虚に向き合う。

「何体斬った?」

「…八。」

 日番谷の声に、頷く。

「部下を庇いながらそれだけ働ければ上出来。 あとは任せろ。」

 は地を蹴った。

「一気にかたを付ける! 伏せていろ!」

 は続けた。

「…卍解、星彩月華(せいさいげっか)。」

 一瞬、辺りが眩い光に包まれた。

 直後、虚達の姿は消えていたが。

 日番谷にさえ、何が起きたのかわからなかった。


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