『私の最期の願いだ、聞いてくれないか…?』 今にも泣き出しそうな程に、弱々しい声。 『私を抱け… 白哉………』 は泣いていた。 確かに、泣いていた。 「………。」 朽木白哉が、眠る少女の頬にそっと手を触れた。 「!」 その瞬間、は身を翻し、白哉の首元に斬魄刀を突き付けた。 「なっ… 白哉…?」 相手が白哉とわかって、が目を丸くする。 「お前が私の寝首を掻くのか? ………って、あれ?」 自分の置かれている状況がわからず、目をぱちくりさせる。 その間に、白哉はの手から月華を取り上げていた。 の手元を離れた月華は、花びらとなり灰となり、空気に乗って消えて行った。 「ココはどこだ?」 「私の屋敷だ。」 「私は、自分の足で朽木邸まで歩いて来たのか?」 「四番隊の救護室から、私が運んだ。」 「救護室? 怪我をしたのか?」 「お前ではない。」 少し間を空けて。 始めは首を傾げていただが、状況を把握したのだろう。 まっすぐに、白哉を見上げる。 「私は、どれほど眠っていた?」 「一晩だ。」 「…そうか。 日番谷は?」 の声に、白哉が首を振る。 「心配するな。 大事無い。」 に宛がわれた、朽木邸の一室。 「白哉様。 十番隊・隊長 日番谷様と、四番隊・隊長 卯ノ花様がお見えです。」 聞き慣れた側女(使用人)の声に頷く。 「通せ。」 がらっ。 ドアが開いた。 「…何用だ?」 「お前に用があるんじゃねえよ。 に礼を言いに来たんだ。」 がじっと日番谷を見据える。 「怪我はいいのか? 日番谷。」 の声に、日番谷は小さく頷いた。 「具合はいかがですか、さん?」 卯ノ花がにこりと微笑んだ。 「大丈夫だ、卯ノ花。 それより、勝手な事をしてすまなかった。 迷惑だったろう?」 の声に、卯ノ花が首を振る。 「いえ、迅速な処置のおかげで、大事に至らずに済みました。」 巨大虚(ヒュージ・ホロウ)を滅した後、怪我をした日番谷を四番隊の救護室まで運んだはいいが。 十一番隊で乱闘が起こり、丁度卯ノ花が留守にしていたのだ。 「治癒力をお持ちなんですね。 驚きました。」 卯ノ花の声に、は首を竦めた。 「いや、どうも苦手だ。 暴れる方が、私の性に合っているらしい。」 巨大虚に胸を貫かれた日番谷。 傷自体も深かったが、それよりも、失血が多かった。 は自分の霊力で、日番谷の傷を塞ぎ、自分の血を分け与えた。 卯ノ花が戻った頃には、日番谷の顔色は戻っていたが、代わりにが倒れてしまった。 「十一番隊の方々も、さんが倒れられたと聞いて責任を感じていましたよ。 元気になったのなら、一度、顔を見せてあげると良いでしょう。」 「そうか。 では、さっそく…」 「待てよ。」 元気に部屋を出て行こうとしたを、日番谷が呼び止めた。 「どうした、日番谷? 腹でも減ったか?」 が首を傾げる。 日番谷は躊躇いがちに口を利いた。 「…月華って、お前の斬魄刀か?」 「そうだ。」 いきなり何を聞くのだろう。 はますます訳がわからず、首を傾げる。 「お前、前に斬魄刀の名は"姫椿"だって、言ったよな? どう言う事だ?」 日番谷がまっすぐにを見据える。 「一人の死神が二本の斬魄刀を使うなんて聞いた事ないが、お前が嘘を言ってるようにも見えねえ。 どう言う事だ?」 日番谷の言葉が完全に発せられる前に、白哉が口を挟んだ。 「…姫椿の事を、話したのか?」 無意識に、しかし確かに、霊圧が上がった。 「違う。 夢を見たんだ。 寝言で姫椿を呼んだ。」 「ほぅ… 夢を見るほど眠入っていたのか、彼の者の側で。」 「…だったら何だと言うんだ? お前には関係ないだろう、白哉。 それとも何だ? お前が私の手を握ってくれるのか?」 チリッ 空気が震えた。 「お止めなさい。」 卯ノ花が二人の間に割って入った。 「病み上がりの者に、無理をさせてはなりません。 貴方も心配されたので、さんを自分の側に置いておきたかったのでしょう。 だから私の制止の声も聞かず、さんを連れ去ったのでしょう、朽木隊長。」 ツキン 卯ノ花の言葉は、の胸に刺さる。 は小さく首を振った。 じぃっと、日番谷を見据える。 「お前の問いに答えよう、日番谷。」 「…」 白哉が何か言いかけるが、は聞き入れなかった。 「私の斬魄刀は、"月華"だ。 私が呼べば、尸魂界どこにいても姿を現す。」 は一度目を閉じた。 「"姫椿"は… 防人一族に代々伝わる、斬魄刀。 だから、今は私の刀だ。」 日番谷が眉を寄せた。 「それってどう言う…」 が首を振る。 「悪いが… それ以上は話せない。」 日番谷は息を吐いた。 月華と姫椿。 二つの斬魄刀。 常時、が扱うのは、月華。 一瞬で巨大虚(ヒュージ・ホロウ)を消し去る力を持った、斬魄刀。 『ダメだ、姫椿!!!』 夢を見ながら、は魘されていた。 姫椿。 それは一体、どのような斬魄刀なのだろう。 |