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「はぁ…」

 瀞霊廷の繁華街の一角。

 日番谷は大きな溜息を吐いた。

「ほら、日番谷くんっ!」

 雛森が困ったように首を竦める。

「折角乱菊さんが教えてくれたんだから、ちゃんと中に入ろうよ。」

 日番谷はぽりぽりと頭を掻いた。

(何でこんなにはりきってんだよ…)

 周りを見回せば、女子ばかり。

 それもそのはず。

 日番谷と雛森は今、瀞霊廷で話題の、雑貨店の前にいた。

 何故、このような場所に来ているかと言うと。

「ほーら、照れてないで! ちゃんに、プレゼントするんでしょ!」

 先日、隊員を連れて虚退治に西へ向った所、巨大虚の襲撃を受けた。

 助けられた挙句に、日番谷の傷を治そうとして、が倒れてしまった。

 その詫びと礼を兼ねて、何かプレゼントしようと決めたのはいいが。

 年頃の娘が好む物など、日番谷にはわからない。

 副官の松本に聞いたのが悪かったのか。

『隊長が、プレゼントですか? に?』

 面白いと思って食いついたのはいいが、どうも仕事の都合が合わないらしく。

 自分が一緒に行けない代わりに、雛森に同行を頼んだらしい。

「まさか日番谷君とこんな場所に来るなんてねー。」

 雛森は嬉しそうに、日番谷の手を引いて店の中に入った。

「ま、待て、雛森! 俺にだって心の準備が…!!」

 日番谷の言い分も虚しく、二人は雑貨店の人波に紛れて行った。

 十番隊・隊長 日番谷 冬獅郎。

 女子専門の、雑貨店デビュー☆





「あ、ー!」

 大きな木の下に横になってぼーっとしていると、よく知る声に名を呼ばれた。

 体を起こす。

「やちる。 斑目も一緒か?」

 十一番隊・副隊長の草鹿やちると、同じく第三席の斑目一角。

 二人がなかよく歩いている。

「二人でサンポか?」

 の声に、一角がどっと溜息を吐いた。

「俺は隊長に言われて付いてっただけだ。 方向音痴の副隊長が、苺大福が食べたいなんて我侭言いいやがるから…」

「うるさい、パチンコ玉。」

 ペッと唾を吐きかけて、やちるがの隣に座った。

チャキ…

 一角が斬魄刀に手を伸ばす。

「…今のは言い方が悪いぞ、斑目。」

 はそう言って、隣に座るやちるの頭を撫でた。

。 この間はごめんね。 十一番隊(うち)が卯ノ花さん借りてて、無理しちゃったんでしょ?」

 やちるの声に、首を振る。

「大丈夫、気にするな。」

 にこりと微笑むに、やちるはつられて笑った。

「ココで何してたの?」

「…少し、考え事をしていた。」

「考え事?」

 首を傾げたやちるを見て、一角が小さく息を吐いた。

 やちるとは逆の、の隣に腰を下ろす。

「副隊長にはわかんない、複雑な事情がにはあるんだよ。」

「黙れ、パチンコ玉。」

 唾を吐きかけはしなかったが、やちるは一角に悪態を付いた。

 青筋の浮かんだ一角の額を見て、が苦笑う。

「まぁまぁ…」

 に宥められて、一角はごろんと、その場に寝転んだ。

 ぽかぽかと暖かい陽気。

 ちらっと、隣を見ると。

 何やら難しそうな顔で、が地面と睨めっこをしている。

「………力になるからな。」

 突然の声に、は視線を移した。

「お前が気に入ったって、隊長がそう言ったんだ。 お前はもう、十一番隊(俺等)の仲間だからな。 何かあったら言えよ。 …力になるぜ。」

 は目をぱちくりさせた。

「…いきなり優しくされると、気持ち悪いな。」

「あ? 喧嘩売ってんのかテメェ?」

 優しい風に、漆黒の髪が揺れる。

「…ありがとう、斑目。 嬉しいよ。」

「ケッ。」

 一角は上体を起こした。

「文句のある奴には、好きに言わせておけばいい。 防人だか封印だか知らねえけどよ、お前はお前だろ。 気にすんな。」

「…今日は随分男前だな。」

 少し驚いてがそう言った。

「昔から名前に一の字が付く奴は、才能溢れる男前って相場が決まってんだ。」

 一角がを見て、不敵に笑った。

「惚れんなよ?」

「カッコ付けてんじゃねえよ、ハゲ!」

 が何か言うより先に、やちるが口を利いた。

 を取られて、拗ねているのだろうか?

ぷち。

「こっちが下手に出てるからって調子に乗るな、チビ!!」

 抜刀しようとした一角の手を、が取る。

「…幼子相手にむきにならねば、更に男前が上がるぞ。」

 にこりと微笑まれて、一瞬で怒りを忘れた。

「お、おう… ///// 」

「照れてんじゃねえよ、ユデダコみたいになってるぞ。 ユデハゲ。」

ブチッ。

「覚悟しやがれ、チビ!」

、またねー!」

 怒り狂う一角に追われながら、やちるが元気に手を振る。

 二人の背を見送って、は小さく息を吐いた。

 何だろう。

 とてつもない不安で、胸が締め付けられそうだ。

「…一体、何が起きると言うんだ………」

 少女の呟きは、風に乗って消えた。


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