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パキィッ

「!」

 が振り返った。

ちゃん? どないしたん?」

 市丸が首を傾げる。

 一瞬感じた、霊力の乱れ。

(気のせいか…?)

「いや、何でもない…」

 一人で歩いている所を、市丸に捕まった。

 断る理由もないので、市丸と一緒に繁華街を歩いていた。

 通り過ぎる度、死神達が振り返る。

「お疲れ様です、市丸隊長!」

「お疲れさん。」

 平隊員達に、幾度か声をかけられている市丸を見て、はいじわるそうに笑った。

「随分、人気があるみたいだな、市丸隊長。」

「いややわ〜、ボクより人気あるのちゃんやろ?」

 市丸の声に、が首を傾げる。

「ほら。」

(あの市丸隊長と一緒のきれいな人誰?)

 市丸が指差した方へ注意を向けると、そんな声が聞こえた。

ちゃん、自分の事やから知らんやろうけど、瀞霊廷ではかなり有名やで?」

「私が? 何故だ?」

 市丸の声に、訳が分からないとでも言うように、が首を傾げる。

ちゃん、可愛えし美人やし… 他の隊長さん達とも仲ええやろ。 それに…」

 いつだったか。

 四番隊の救護室から、朽木白哉がを連れ出した。

「…白哉のせいか。」

 話を聞いて、が小さく息を吐く。

「今の隊長さんで一番有名なんは朽木くんやからなぁ。 その朽木君がちゃん攫ったって話、すぐに広まったみたいや。」

「…攫われた訳ではないが………」

 は困ったように、ぽりぽり頭を掻いた。

「痴話喧嘩も有名や。」

 封印から目覚めた直後、白哉から逃げていた頃の事だろう。

「噂はボクも聞いとるで。 一緒に住んでるんやろ?」

 市丸が続ける。

「あとは武勇伝やんな。 十番隊長さんを助けたって話… 有名になるには十分や。」

 はどっと溜息を吐いた。

 防人の一族は、表舞台にその姿を現す事はなく、存在すら知られていなかったと言うのに。

 今こうして、自分が有名になってしまっているのは、良いのだろうか?

「そう言えば、ちゃん聞いとる?」

「何をだ?」

「零番隊に入りたいって、希望者が複数おるみたいやで。」

 市丸の言葉に、は驚いて目を丸くした。

「でもわかるわー。 ちゃんくらいキレイな隊長さんやったら、毎日仕事が楽しいやろな〜。」

 が頭を抱える。

「仕事なんて、楽しいものではないだろう。」

「ん。 せやけど、楽しく出来たら、それが一番ええやんな。」

 は目を丸くした。

「…楽観的だな。 変わった隊長だ。」

「褒めてくれるん? 嬉しいわー。」

 前方の茶屋に、知った顔を見つけた。

「阿散井!」

 の声に、恋次が振り返った。

と、市丸…隊長………」

 恋次が背後に声を投げた。

「オーイ、吉良! いたぞ!」

「あ、アカン。 ちゃん、またな。」

 に声をかけて市丸が駆け出すと同時に、物凄いスピードで、吉良が駆けて来た。

「市丸隊長ー! 逃がしませんよ!! いい加減、仕事をして下さい! 市丸隊長ー!!」

 吉良はの隣を、物凄いスピードで横切った。

 市丸の名を呼びながら、繁華街を駆け回る。

「………大変みたいだな、三番隊は。」

 が呟いた。

「あそこはアレが日常茶飯事だ。 市丸と何か約束してたのか?」

「いや。 ただサンポしていただけだ。」

 恋次の声に首を振って、が腰を下ろした。

ピク。

 が眉を寄せた。

「ん、?」

 恋次が首を傾げる。

 は立ち上がった。

 先程感じた霊力の乱れ。

 やはり気のせいではなかったようだ。

「…ちょっと行って来る。」

「は? どこにだよ?」

 突然のの行動。

 串団子を片手に、恋次が首を傾げた。

「現世。」

「なんでだ??」

 益々、訳が分からない。

「聞くな、阿散井。 私にもわからない。 ただ、胸騒ぎがする。」

「あ、オイ! !!」

 恋次の声にも振り返らず、はその場から姿を消した。


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