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ザ ―――――

 向った先は、現世の空座町。

 意図的に、呼び寄せられた虚たち。

 が苦々しく舌打ちをした。

(撒き餌を使ったな… どこの馬鹿だ………)

 高い構造物の上で、眉を寄せた。

 虚たちが、ヒビ割れた空へ集まっていた。

「石田ァーっ!!!」

 びくっ。

 突然聞こえた、怒鳴り声。

「な、何だ…?」

 は声の方へ視線を移した。

「うおおおおおおーっ!!!」

 叫び声と共に、虚を薙ぎ倒し、一人の少年が声を上げた。

「石田ァー!!!」

 に気付くわけもなく、目の前の少年を怒鳴り付けている。

「な… 何て無茶苦茶な子供だ………」

 開いた口が塞がらない。

 それほど、その子供の戦い方は無謀だった。

 虚は、一撃で確実に頭を潰す。

 死神なら、誰もが知っている決まりである。

「?」

 は目を見張った。

(何だ、あの馬鹿に大きいのは? …斬魄刀か?)

 オレンジ色の髪に、自分の背丈ほどもある巨大な斬魄刀。

 が不審そうに見るその子供は、黒崎 一護。

 朽木ルキアから死神の力を譲り受け、死神業を代行しているのだが、がそれを知るはずも無い。

(あちらの子供は… 滅却師(クインシー)か…?)

 不思議な光景だった。

 互いに憎み合っていた死神と滅却師が、共に戦っている。

 と、全身に電流が走った。

(この霊圧は………!!)

 は弾けたように空を見上げる。

 罅割れた空から、何かが顔を覗かせた。

「!」

 息を飲む。

(大虚(メノス・グランデ)…!)

 は地上に視線を戻した。

 一護達の手に負える相手ではない。

 しかも、虚達に囲まれているのに、二人で何やら言い争っている。

(馬鹿が! 敵中で何をやっているのだ!!)

 現世に来る前に、鞘に収めた月華を腰に差して来た。

 今、の腰には、二振りの斬魄刀がある。

 月華に手をかけ、飛び出そうとしたより先に、虚を滅する者があった。

ガガガガガガガガ

 耳を塞ぎたくなるような、騒音。

「黒崎サーン! 助けに来てあげましたよーん♪」

 場違いなほどに明るい声が、その場に響いた。

 その声に、は一瞬、呼吸を忘れた。

ドクン

 己の心臓が、激しく鼓動しているのがわかる。

 何故だろう、胸が締め付けられるように苦しい。

『…諦めませんよ。 必ず助けて差し上げます。』

ドクン ドクン

 突然現れた四人組。

 その内の三人が、次々に虚を倒して行く。

 は動く事も出来ずに、下駄帽子の男をじぃっと見据えていた。

『待っていて下さい、さん。』

ドクン ―――――

「………喜助。」

 やっとの思いで搾り出した言葉。

 その小さな呟きに、下駄帽子の男・浦原 喜助が振り返った。

 浦原が振り返るより先に、は姿を消した。

「……………」

 つい今まで、がいた場所。

 一ミリの霊圧も感じられないが、何かがいただろうという気がする。

 浦原はしばらくそこを見ていたが、やがて現実に引き戻された。

バキッ バリバリバリ…

 空のひびが広がる。

 大虚が、空を破ってその姿を現した。

(出てきたか…)

 はぎゅっと、鎖の巻かれた斬魄刀を握る。

シズマレ

 一時的に、感情が昂った。

 静めるために、大きく息を吸う。

 大虚(メノス・グランデ)。

 何故出て来たのだろう。

 王属特務の管轄である。

 一死神の手に負える相手ではない。

 この町はおろか、一つの国が消えるだろう。

 虚が鳴いた。

 それに反応するように、大虚(メノス)が舌を伸ばした。

 一匹の虚を、その大きな口に運ぶ。

(…醜い化け物め……… 仲間を食らうか。)

 が眉を寄せた。

 大虚相手に、物怖じしているのではない。

 ただ、浦原がいる。

 奴に気付かれずに、大虚を倒す方法はないだろうか?

 は必死に考えていた。

「あああああっ!!!」

「!」

 突然の声に視線を投げると、先ほどの子供・黒崎一護が大虚に飛びかかっていた。

「バカ者! 迂闊だ!!」

 思わず叫んでしまった。

 大虚の足を切り付けたのはいいが、大した傷を負わせることもなく、一護はそのまま蹴り飛ばされる。

 それを見て滅却師(クインシー)の少年が矢を射るが、やはり大した傷を負わせる事は出来なかった。

「全く… 何を考えているんだ君は!? 今のでどうやってアレを倒す気だったんだ!?」

(全くだ。)

 滅却師(クインシー)の声に、も頷く。

「イヤ… 足元から順に斬り飛ばしてけば、最後には頭が落っこちてくるかなーと思ってよ…」

 一護の声に、体の力が抜ける。

(おいおい… めちゃくちゃだな…)

 は溜息を吐いた。


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