強いとか、弱いとかの問題じゃない。 戦い方を、まるでわかっていない。 (どこの隊の所属だ? 隊長は何故この子供を現世に放った?) ビリッ 大気が震えた。 大虚の霊圧が上がっている。 「!」 が息を飲む。 (虚閃(セロ)… 打つ気か?) 焦る様子もなく、一護に視線を移す。 (さて、どうする?) 確実に高まる霊圧をその身に感じ取ったのだろう。 一護は大虚に飛び掛った。 (策もなく飛び込むか… 若い。) ギュワ ――――― 大虚(メノス)の口から、凄まじい霊圧が放たれた。 バチン !!! (! 弾いた!?) は目を疑った。 大虚の攻撃を、こんな子供が受け止められるのか。 常識で考えれば不可能だが、実際に目の前でこうしてそれを見ている自分がいる。 いつまで持つかと思っていた矢先。 キィィイイイイイイ……… (…共鳴しているのか? あの子供の霊圧が………増大されて行く…?) は息を飲んだ。 死神の霊力の大きさを表す斬魄刀。 あれほど大きな斬魄刀は、今まで見た事はない。 あの子供の霊力が、それほど大きいと言うのか。 ドン ――――― 信じられなかった。 子供が、大虚を両断してしまった。 「馬鹿な…! 大虚が………」 両断された大虚は、空の中へ帰って行く。 「勝ォ―――利!!!」 ピースをして、子供が叫んだ。 その様子に、やはりまだ子供だと思いつつ、腰の斬魄刀に問う。 「………月華、答えろ。 お前の知る限り、大虚を両断した死神は、過去に何人いる?」 『………だけだよ。』 しっかり、そう聞こえた。 「そうか…」 己の力は、嫌と言う程知っている。 あの子供の霊力は、と同等なのだろうか? (一死神に許された領域ではないぞ… さて、尸魂界(ソウル・ソサエティ)はどう動く…?) 少し楽しいと感じてしまう辺り、性格が歪んでいるのかもしれない。 自分の事ながら、少し呆れた。 と。 いきなり、子供が倒れた。 側にいた滅却師が、慌てて駆け寄る。 一護の斬魄刀の形状が崩れていた。 「!」 は目を見張った。 「霊力をコントロール出来ないのか? バカ者…」 滅却師が側に付いて霊力を放っているのを見て、は小さく息を吐いた。 一護の霊力は巨大なもので、いくら放ってもキリがないだろう。 は意を決した。 「下がれ、子供。 無駄に傷を負う必要はない。」 聞き覚えのない声に、石田は目を疑った。 「なっ…」 一体どこから現れたのだろう。 黒衣の死覇装、その上に羽織った白い張羅。 二つの斬魄刀を腰に差した美しい死神が、一護の側へ腰を下ろしている。 「!!!」 少し離れた場所にいた浦原とルキアが、言葉を飲み込んだ。 「誰だ…?」 ルキアに、覚えはない。 「……………」 浦原は何も言わなかった。 「とんでもない奴かと思いきや、力をまるで制御できぬか。 面白い子供だ。」 「…んだ、テメェ………」 口を利くのがやっとの状態なのに、それでも一護は悪態を付いた。 それがまた、少し嬉しい。 「強がるな、今楽にしてやろう。」 は、例の斬魄刀を、鎖の巻き付けられた鞘ごと一護にかざした。 「?」 突然現れた自身に。 そして、の言動に、一護が眉を寄せる。 「…咲き誇れ、姫椿(ひめつばき)。」 ブワ (なんだ…?) 一護の体を、妙な浮遊感が包んだ。 全身の力が抜けてゆくような感覚。 体に力が入らない。 (この斬魄刀か…?) 自分にかざされた斬魄刀。 鞘に納まったままだと言うのに、禍々しい霊圧を感じる。 (喰われる…!) そう思ったのに、瞬き一つ出来なかった。 ス の手が、一護の視界を塞いだ。 途端に、それまで感じていた不快感が消える。 「お…?」 一護は体を起こした。 「どうだ? 楽になっただろう?」 「おお、さんきゅー。 助かったぜ。」 の声に、一護は頷いた。 「私は。 子供、お前の名は?」 (子供だぁ〜…?) 一護はぶすっとして呟く。 「…黒崎一護。 高校一年生だ。」 が目をぱちくりさせた。 「何だ、お前人間か?」 「んだよ、文句あんのか?」 ゴン 悪態を付く一護の頭を杖で力一杯叩いて、浦原がを見据えた。 「…目覚めたんですか、さん。」 いつもの掴み所のない声でなく、真剣な様子の浦原。 はゆっくり浦原を見上げて、にこりと微笑んだ。 その透き通るような微笑に、図らずも一護も石田も見惚れていた。 「………迷惑をかけたみたいだな、喜助。」 「アタシが好きでやったんですよ。 そんな顔しないで下さい。」 にこりと微笑んで、、浦原がそっとに手を伸ばす。 バチィッ。 に触れる直前で、浦原の手は見えない何かに弾かれた。 それを見て、が首を竦めて笑った。 「………すまない、喜助…」 浦原が首を振る。 「さん… 目覚めたアナタの、望みは何ですか? アタシに教えてくれません?」 「私は………」 は一度、強く唇を噛んだ。 「…眠る事すら許されぬと言うのなら、いっそこの身など朽ち果ててしまえばいい… 私に死と言う安らぎを与えてくれ………」 その声を最後に、はそこから姿を消した。 一護も石田も、離れた場所にいるルキアも、目を見張った。 「…アイツも死神なのか、なぁ?」 一護の声には答えず、浦原は小さく息を吐いた。 浦原の手が、虚しく宙を掴んだ。 「………アタシには、アナタの涙を止める事も… アナタを抱き締める事さえも出来ないんですよ………」 何もない、空を仰ぐ。 「許してください、さん………」 その声は、には届かない。 |