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「行くぞ、蛇尾丸!」

(ちくしょう… 俺の部屋だろ………)

 部屋を追い出された恋次は、手合わせの約束があるので、そのまま鍛錬場へ足を進めた。

 六番隊の副隊長室。

 二人きりになって、わずかにの体に緊張が走る。

 白哉はの傍らに、膝を折った。

「…隊主室(私)に用件があったのではないのか?」

 白哉の声。

 やはり読まれていた。

 本当は、隊主室へ転がり込もうとした。

 だが、窓を蹴破る寸前に躊躇った。

(白哉の顔を見て… 私はどうするのだ?)

 には、八つ当たりをする事も、泣いて縋る事も出来ない。

 白哉とは、そう言った関係ではない。

(白哉は一度、私を捨てたのだ… 今更何を望む…)

 唇を噛んだ。

 何一つ、変わっていない。

 封印される前と、何も変わっていない。

 孤独である淋しさに耐えられない、小さく弱い少女。

 それが、自身だ。

「…どこへ行っていた? 尸魂界を離れていたであろう。」

「………大虚(メノス)の気配を感じて… 現世に向っていた。」

 の声に、白哉が眉を寄せる。

「命令違反だ、。」

 白哉が続ける。

「わかっておるだろう、お前が尸魂界を離れる事は許されない。」

「大虚が現れるとわかっていながら、大人しくしていろと言うのか!?」

 が声を荒げた。

 そこでやっと、膝から頭を上げる。

 恨めしそうに白哉を睨み上げる黒曜石の瞳。

 それは涙に濡れていた。

「………現世で、何を見た?」

 子供の頃から、白哉はを知っているが。

 はあまり泣かない。

 人に甘えると言う事を知らないからだ。

 余程の事があったのだろうと考えられた。

「………………………」

 だんまりを決め込んだ

 その髪を、白哉の手が撫でる。

「私には話したくないか?」

 は一度、瞳を閉じた。

「………大虚(メノス)を両断する子供に出会った。」

 白哉がわずかに眉を寄せる。

「大虚を、両断だと…?」

 が頷く。

「…オレンジ色の髪をした、身の丈程の斬魄刀を持った子供だ。」

「その子供の名は?」

「…黒崎 一護。」

 そっと、白哉が少女の頬に触れる。

「涙の理由は何だ?」

 がじぃっと、白哉を見据えた。

「……………喜助に、会った…」

「……………」

 白哉は言葉を飲み込んだ。

「…現世でも、相変わらず元気にやっているみたいだった………」

 は、白哉を見据えたまま眉を寄せた。

「白哉、私は………!」

「何も言うな…」

 白哉が首を振る。

 が唇を噛んだ。

「喜助が……… 笑ったんだ… 私を見て………」

 黒曜石の瞳は、溢れそうな涙を堪えている。

「白哉… 私は…!!」

 何か言いかけた少女を、白哉が抱きすくめた。

 突然のその行動に、は言葉を飲み込んだ。

「気に病むな、。 アレも、己の意思で動いた。 決してお前のせいではない。」

 白哉の腕での中で、が力なく首を振る。

「私は… 喜助から全てを奪ってしまった… 喜助が尸魂界を離れたのは、私のせいだ………」

 堪えきれず、の瞳からぽろぽろと涙が溢れた。

「…やはり調べたか。 お前が眠っていた間に何があったか。」

 ぎゅっと、白哉が強くを抱き締める。

「…私さえいなければ………! 何事も起こらなかった…! 誰も傷付かずに済んだのに…!!」

 が泣きながら、白哉の服を強く掴んだ。

「殺せ、白哉…!! 私を殺せ…!!!」

 悲痛な涙声。

 きっと小さな体に、深い傷を抱いているのだろう。

 白哉には、を抱き締める事しか出来なかった。


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