「…ったく、どこ行ったんだよ、あの野郎…」 日番谷冬獅郎が呟いた。 「いつもは呼んでもねえのに遊びに来るくせに、めずらしく探してたらどこにもいやがらねえ… あー、クソ!」 八つ当たりだろうか。 思いっきり壁を蹴る。 一隊長のいらいらした様子に、すれ違う死神達はビクビクしていた。 「あ?」 気が付いたら、六番隊の隊舎近くまで来ていた。 (そう言えば阿散井の奴と手合わせの約束したっけか?) どうせならここまで来たついでに、恋次を拾って行こうか。 そんなことを思って、隊舎の敷居を跨いだ。 「日番谷隊長、ご苦労様です。」 「おう。 阿散井はいるか?」 「はい。 副隊長室に。」 挨拶をして来た隊士に聞いて、副隊長室を目指す。 丁度、恋次が出て行った後だったが、日番谷はそれを知らない。 「おーい、阿散井………」 わずかに開いていたドア。 それを開けようとして、日番谷は言葉を飲み込んだ。 「殺せ、白哉…!!」 中から聞こえた叫び声は間違いなく。 「…?」 ただならぬ様子に、悪い事と知りつつ中を覗いた。 と… 朽木白哉。 「私を殺せ…!!!」 何故、副隊長室に二人きりなのか。 何故、が泣いているのか。 何故、白哉が少女を抱き締めているのか。 一体、何を話していたのか。 そんな事は何一つわからなかった。 ただ。 泣きながらそんな事を叫ぶは、いつもの掴み所のない様子からは想像できない程、小さく弱い少女だった。 「氷輪丸!!」 日番谷の声に反応するように、無数の氷の刃が獲物を狙った。 「…! んの野郎!!」 蛇尾丸でそれらを薙ぎ払いながら、恋次が体勢を立て直す。 「まだまだ、行くぜ!!」 日番谷が地を蹴る。 空中で振り下ろされた氷輪丸から、滝のように水が流れ出た。 「へ? うわぁ…!」 容赦なく、恋次を襲う。 「日番谷君! やり過ぎ!!」 雛森が口を出した。 その声で、日番谷は我に返った。 「あ………」 しまったとでも言うように、小さく首を振る。 恋次との手合わせ中に、ぼーっとしてしまった。 「阿散井くん! 大丈夫!?」 雛森が慌てて恋次に駆け寄った。 その様子を横目に、氷輪丸を鞘に収める。 「もう、日番谷君! どうしたの、ぼーっとして! どうしていらいらしてるの!?」 雛森がぷぅと頬を膨らませた。 「………悪い。」 ぽりぽりと、頭を掻いた。 「大丈夫か、阿散井?」 恋次の方を見やると、恋次は恨めしそうに日番谷を睨んでいた。 「…そんだけガン飛ばせりゃ大丈夫だな。」 そう言って、日番谷が小さく息を吐いた。 どこか落ち着かないと言うか… 雛森の言ったとおり、少しいらいらしている。 頭に浮かぶのは先ほどの。 『殺せ、白哉…!! 私を殺せ…!!!』 白哉に泣いて縋っていた、の声。 「…チッ。」 日番谷が小さく舌打ちをしたと同時に。 鍛錬場のドアが開いた。 「隊長!」 少し慌てた様子の松本が、日番谷へ駆け寄る。 「何だ、松本? 何があった?」 一度息を吐いて、松本は日番谷を見据えた。 「…が投獄されました。」 「! なっ… んだと? 本当か?」 突然の言葉に、副官を見上げる。 「本当です! 六番隊の牢に…」 「…くそ!」 松本の言葉を最期まで聞かずに、日番谷は駆け出した。 「あ、隊長!!」 十番隊の日番谷が向っても、六番隊の牢は開けられないだろう。 「乱菊さん、俺が…!」 日番谷を追って、恋次が駆けた。 |