2


「…ったく、どこ行ったんだよ、あの野郎…」

 日番谷冬獅郎が呟いた。

「いつもは呼んでもねえのに遊びに来るくせに、めずらしく探してたらどこにもいやがらねえ… あー、クソ!」

 八つ当たりだろうか。

 思いっきり壁を蹴る。

 一隊長のいらいらした様子に、すれ違う死神達はビクビクしていた。

「あ?」

 気が付いたら、六番隊の隊舎近くまで来ていた。

(そう言えば阿散井の奴と手合わせの約束したっけか?)

 どうせならここまで来たついでに、恋次を拾って行こうか。

 そんなことを思って、隊舎の敷居を跨いだ。

「日番谷隊長、ご苦労様です。」

「おう。 阿散井はいるか?」

「はい。 副隊長室に。」

 挨拶をして来た隊士に聞いて、副隊長室を目指す。

 丁度、恋次が出て行った後だったが、日番谷はそれを知らない。

「おーい、阿散井………」

 わずかに開いていたドア。

 それを開けようとして、日番谷は言葉を飲み込んだ。

「殺せ、白哉…!!」

 中から聞こえた叫び声は間違いなく。

「…?」

 ただならぬ様子に、悪い事と知りつつ中を覗いた。

 と… 朽木白哉。

「私を殺せ…!!!」

 何故、副隊長室に二人きりなのか。

 何故、が泣いているのか。

 何故、白哉が少女を抱き締めているのか。

 一体、何を話していたのか。

 そんな事は何一つわからなかった。

 ただ。

 泣きながらそんな事を叫ぶは、いつもの掴み所のない様子からは想像できない程、小さく弱い少女だった。









「氷輪丸!!」

 日番谷の声に反応するように、無数の氷の刃が獲物を狙った。

「…! んの野郎!!」

 蛇尾丸でそれらを薙ぎ払いながら、恋次が体勢を立て直す。

「まだまだ、行くぜ!!」

 日番谷が地を蹴る。

 空中で振り下ろされた氷輪丸から、滝のように水が流れ出た。

「へ? うわぁ…!」

 容赦なく、恋次を襲う。

「日番谷君! やり過ぎ!!」

 雛森が口を出した。

 その声で、日番谷は我に返った。

「あ………」

 しまったとでも言うように、小さく首を振る。

 恋次との手合わせ中に、ぼーっとしてしまった。

「阿散井くん! 大丈夫!?」

 雛森が慌てて恋次に駆け寄った。

 その様子を横目に、氷輪丸を鞘に収める。

「もう、日番谷君! どうしたの、ぼーっとして! どうしていらいらしてるの!?」

 雛森がぷぅと頬を膨らませた。

「………悪い。」

 ぽりぽりと、頭を掻いた。

「大丈夫か、阿散井?」

 恋次の方を見やると、恋次は恨めしそうに日番谷を睨んでいた。

「…そんだけガン飛ばせりゃ大丈夫だな。」

 そう言って、日番谷が小さく息を吐いた。

 どこか落ち着かないと言うか…

 雛森の言ったとおり、少しいらいらしている。

 頭に浮かぶのは先ほどの。

『殺せ、白哉…!! 私を殺せ…!!!』

 白哉に泣いて縋っていた、の声。

「…チッ。」

 日番谷が小さく舌打ちをしたと同時に。

 鍛錬場のドアが開いた。

「隊長!」

 少し慌てた様子の松本が、日番谷へ駆け寄る。

「何だ、松本? 何があった?」

 一度息を吐いて、松本は日番谷を見据えた。

「…が投獄されました。」

「! なっ… んだと? 本当か?」

 突然の言葉に、副官を見上げる。

「本当です! 六番隊の牢に…」

「…くそ!」

 松本の言葉を最期まで聞かずに、日番谷は駆け出した。

「あ、隊長!!」

 十番隊の日番谷が向っても、六番隊の牢は開けられないだろう。

「乱菊さん、俺が…!」

 日番谷を追って、恋次が駆けた。


back