4


 朽木白哉の霊圧を辿り、日番谷は駆けていた。

 六番隊・隊主室。

 そのドアを蹴破る。

「朽木!!」

 そのまま飛び掛った。

「…騒々しい。 無礼だぞ。」

 白哉が眉を寄せる。

 日番谷は背中の斬魄刀の柄を握った。

 何も言わず、そのまま斬りかかる。

ガギィン。

 白哉は慌てた様子もなく、日番谷の氷輪丸を己の斬魄刀で受けた。

「何でを牢に入れた?」

 日番谷が白哉を睨み上げる。

「…罪を犯した。 罰せられて当然だ。」

 白哉は顔色一つ変えず、そう言い放った。

「朽木、お前は!!」

 日番谷が唇を噛んだ。

「お前はが大事なんじゃないのかよ…!」

 白哉がを捜し歩いていた事も、四番隊の救護室から連れ帰ったのも、が朽木邸に世話になっている事も知っている。

 日番谷は再び斬りかかった。

にはお前が必要なんだ! 何でわかってやらねえ!!」

 が寝言で白哉の名を呼んでいた事、日番谷は知っている。

「いきなり接吻かましたり、力づくで連れて行こうとしたり、抱き締めたりもしてたじゃねえか!!」

 はその時、白哉を拒んでいた。

 拒んでいたが、確かに、震えていた。

 日番谷の霊圧が上がる。

「突き放すくらいなら、中途半端に優しくすんじゃねえよ!!!」

ガッ

 日番谷の斬魄刀を、鞘で受けた。

「…言いたい事はそれだけか?」

 白哉が一気に、霊圧を開放する。

(! 来る…!!)

 少し距離を開けて、日番谷は構えた。

チリーン

ガギ、ン

 日番谷と白哉の間で、ソレは日番谷を庇うように白哉の斬魄刀を受けた。

…!」

 日番谷が目を丸くする。

「斬魄刀を納めろ、白哉。 日番谷もだ。」

「お前… 何でココに………」

 驚く日番谷に、は振り返る。

 首を竦めて、にこりと笑った。

「アハ☆ 脱獄して来た♪」

 あまりにあっけらかんと言うので、思わず目をぱちくりさせる。

「脱獄って… お前………」

「二人の霊圧がぶつかるのを感じた。 副官レベルでは、止められないだろう。 それに、間に合わなかった。」

 の言葉の直後、六番隊・隊主室のドアが勢いよく開いた。

「隊長! ストップ!! …って、あら?」

 松本と、恋次が顔を見合わせて首を傾げた。

 が日番谷を見据える。

「ありがとう、日番谷。 私のために、そんなに怒ってくれたのだろう。」

「別にお前のためなんかじゃ………」

 言いかけるが、ににこりと微笑まれて、日番谷は視線を反らした。

「コレも。 ありがとな。」

 と、髪飾りを指差した。

チリーン

 鈴の音が小さく響く。

 日番谷が、ぎゅっと、拳を強く握った。

「…来い、。」

 と、の手を引く。

「日番谷っ…」

 が首を傾げた。

「どこへ連れて行こうと言うのだ? は罰を受けているのだぞ。」

 白哉の声に、日番谷が眉を寄せて振り返った。

「…別に六番隊の牢じゃなくてもいいだろ。 十番隊に連れて行く。」

「…勝手な行動は慎め。 隊舎で許可なく抜刀したのだ。 私も兄も罰を受ける。」

「それがどうした? 罰を受けるのが怖くて、隊主室に殴り込みになんて来れるかよ。」

 白哉の声に、日番谷は一歩も引かない。

「…泣いてた女を一人牢にぶち込むなんて、しかもそいつが少しでも俺を頼ってたってんなら尚更…」

 日番谷が続けた。

「…俺がお前なら、を一人牢にぶち込むなんてマネは出来ねえよ。」

 日番谷の言葉が、の胸を打った。



『…一緒に逃げましょうか、さん。 白哉さんに内緒で、尸魂界から逃げません?』

トクン。

― ダメだ、喜助… お前に迷惑はかけられない… ―




「…ダメだ、日番谷……… お前に、迷惑はかけたくない…」

 気のせいだろうか。

 の声が震えていた。

「…迷惑なんかじゃねえよ。 俺がそうしたいんだ。」



『迷惑なもんですか。 アタシが好きでそうするんですよ。』

トクン

― だったら尚更だ。 ありがとう、喜助… ―




「…だったら、尚更だ。 お前と共には行けない…」



『…そうですか。 力になれなくてすみません………』




「…そうか。」

 日番谷が小さく息を吐いた。

 かと思いきや。

「ぐだぐだうるせーよ!」

 びしっとを指差して、声を荒げる。

「俺が来いって言ってんだ! お前は黙って俺の言う通りにしてりゃいいんだよ!!」

 いきなり怒鳴られて、は目をぱちくりさせた。

「本当は淋しいくせに強がりやがって! 一人で何でもかんでも背負って、抱え込んでんじゃねえ!」

トクン

 こんな風に、誰かに怒鳴られたのは始めてだった。

「朽木! お前にももう何も言わせねーぞ! は俺が連れて行く!!」

 その台詞を最後に、日番谷はを連れて六番隊・隊主室から出て行った。

「た、隊長…!」

 松本がその小さな背に言葉を投げたが、日番谷は振り返らなかった。


back