「…はぁ、はぁ。」 市丸と更木、そして松本まで追い出して、日番谷は肩で息を整えた。 がちゃ ドアの開く音。 「出てけって言っ…!」 振り返って、言葉を飲み込んだ。 「………藍染。」 「や。 日番谷君。」 五番隊隊長 藍染惣右介。 彼は日番谷を見て、にこりと笑った。 市丸達と一緒に松本を追い出してしまったため、日番谷がお茶を入れる。 「何か用か?」 差し出された湯飲みを受け取って、藍染がにこりと笑った。 「落ち込んでいるんじゃないかと思ってね。 様子を見に来たんだよ。」 「そんなヤワじゃねえよ。 これでもかってくれー書類が運ばれて来やがる。」 日番谷が肩を落とすのも無理はない。 十番隊の執務室は、書類の山で埋まりそうだった。 「中々働き者だね、君は。」 藍染が首を竦めた。 「そう言えば、知っているかい? 朽木君が現世に発ったって。」 「聞いてるぜ。 自分の妹捕まえに行ったんだろ。」 ピク やちるの頭を撫でていたが振り返った。 朽木邸が、流魂街の者を養子に迎えていた事は知っている。 (…血の匂いがする………) がわずかに眉を寄せた。 「その間、君を預かっているのかい?」 藍染の声に、飲んでいた湯飲みから口を離した。 「べーつに! 朽木の頭が固いからだ。」 だから無理やりつれて来た。 そう言う日番谷は、やはり子供で。 「あはは。」 藍染が笑った。 「朽木君も不器用なんだよ。 大切で仕方ないのに、それを告げる事が出来ない。 この手の事に関しては、ひどく臆病だ。」 「? 藍染…?」 突然の声に、日番谷が首を傾げた。 「んー… まぁ、余裕がないって言った方が適切かな。」 「何の話だ?」 眉を寄せる日番谷に、藍染は目をぱちくりさせた。 「ああ… 君には、まだ難しい話だね。 大人になったらわかると思うよ。」 藍染が首を竦めた。 面白くないと言わんばかりに、日番谷が眉を寄せる。 「ガキ扱いすんなよ。 朽木がを好いてる事くらい、俺でもわかる。」 湯飲みに口を付けながら、日番谷が続けた。 「で? 余裕がないってどう言う意味だ?」 「まだ早いと思うけどね…」 藍染は困ったように首を竦めた。 「早い話が、一線越えちゃえって事だよ。」 ぶーっ! 口に含んでいたお茶を噴出した。 「な、なっ、な… /// 」 顔を真っ赤にして、日番谷が藍染を見やる。 言葉にならないらしい。 「朽木君のは、ただのヤキモチさ。 深い関係になれば、自信も持てるようになるし… 何より…」 藍染が視線を移した。 藍染が日番谷をからかっている事も知らずに、はやちるの話し相手をしている。 「何より、君が安心できる。」 日番谷も倣って視線を移した。 「今、誰よりも不安なのはきっと君だろうから。」 その声に、胸が締め付けられるような痛みを感じた。 眉を寄せる日番谷に、藍染が軽く首を竦める。 「さて。 僕は行くよ。 二人の顔も見た事だし。 ただ…」 自分の眉間を指差して、日番谷を見やる。 「あまりシワを寄せていると、君が気を休められないよ。」 「それってどう言う…」 クンと、袖を引かれた。 何か言いかけていた言葉を切って、視線を落とす。 「ひっつー。 寝ちゃったよ。」 やちるの声に、ソファの方へ視線を投げた。 先ほどまで起きていたはずなのに、いきなり寝入ってしまったのだろう。 「ひっつーが怖い顔してると、寝れないよー!」 ぷぅと頬を膨らませて、やちるが眉を寄せた。 日番谷が腰を上げる。 「仮眠室へ運ぶのかい? 手伝おうか?」 「いや、大丈夫だ。」 の肩に触れようと手を伸ば。 ――― 「!」 風が起こった。 「なっ…!?」 驚いて離れるより早く、ソファに組み敷かれる。 「………」 斬魄刀の切っ先を突きつけられて、日番谷が言葉を飲み込んだ。 あまりの速さと圧し掛かる霊圧に、呼吸をする事すら忘れる。 「! ひっつーだよ!!」 やちるの声。 は我に返った。 「…すまない。」 少女の手から滑り落ちた斬魄刀は、床に落ちるより先に灰となり消えた。 「いや…」 は日番谷から退き、少し頭を抱える。 「…眠っている私には近付くな。 危うく殺す所だった…」 藍染が首を振る。 「疲れているんだよ、君。 少し休んだ方がいい。」 「、行こ!」 やちるがの手を引いて、執務室奥へ消えた。 「大丈夫かい、日番谷君?」 藍染の声に、溜息で答える。 昨晩は眠れなかったのだろうか。 今日も起きてから、水すら口にしなかった。 何かを疑っているのではない。 誰にも気を許していないようにしか見えない。 (…だから、朽木邸なのか。) どんなに突き放されても、少女が求めるのは、朽木白哉。 少し、悔しかった。 ――――― |