時同じくして現世。 姿を消したルキアを探して飛び出した黒崎一護。 阿散井恋次と戦闘を始めて、大分時間が過ぎていた。 恋次の攻撃を受けて、一護の霊圧が急上昇した。 朽木白哉がそれを見て、微かに眉を寄せる。 (黒崎一護…) 「…終わりにしようぜ。」 一護が、ぎゅっと斬魄刀の柄を握った。 その霊圧が、膨れ上がる。 (大虚を両断したと言っていたな… なるほど大した霊圧だ…) の言っていた子供・黒崎一護は、この少年で間違えないだろう。 「俺が勝って、終わりだ!!!」 斬魄刀を力いっぱい振り下ろした。 勝った。 そう確信した。 !? 一護が息を飲む。 (何…だ!? 刀身が… 消えた!?) 目の前の恋次を見やるが、一護と同じように目を丸くしている。 「!!」 離れた場所にいる朽木白哉。 その手は、確かに一護の斬魄刀の刀身を持っている。 (あいつか!? まさか!!) 激しく、心臓が鼓動する。 (あんな間合いから何もできる筈が無え!! 昨日の女みたいに… 変な術でも使ったのか…?) 朽木白哉が動いた。 (来るか!?) チキ…ッ その姿が消えた。 ザッ 一護が息を飲む。 ドッ その胸から、血が吹き出た。 (なんだよ これ?) 一瞬たりとも、目を離さなかったのに。 (やられたのか? 俺) 体の力が抜ける。 (後ろから刺されたのか 前から刺されたのかも わからねえ…) その目に映るのは、鮮やかに舞う紅(アカ)。 (痛え…) 「鈍いな。」 朽木白哉の声が、その耳に届いた。 「倒れる事さえも。」 ルキアが目を見張った。 「白哉兄様!!!」 妹の悲痛な声に眉一つ動かさず、白哉は二撃目を振り下ろした。 倒れた黒崎一護を、冷たい目で見やる。 (まだまだ未熟とは言え、一瞬で膨れ上がった霊圧…) わずかに眉を寄せる。 (もう少し見ていれば、どうなったであろうな…) 「…一護…」 ルキアが駆け出した。 その様子を、冷たく見やる。 「俺が!」 恋次が駆けた。 ルキアの小さな体を、電柱に押し付け身動きを封じる。 「はっ… 放せ恋次! 一護が…っ!」 「何言ってんだてめぇ!? よく見ろ! あのガキは死んだ!! 死人の為に てめーが罪重くする必要がどこにあるよ!?」 黒崎一護を指差す。 「わかってんのか!? 今あいつにてめーが駆け寄って触れるだけで、てめーの罪が20年分は重くなんだぞ!?」 「それが何だ!!」 ルキアが声を上げた。 「一護は… 私が巻き込んだ… 私の所為で死んだのだ!!」 ルキアの小さな手が、自分を押さえつける恋次の大きな手を強く掴む。 「私の所為で死んだ者の傍に 私が駆け寄って何が悪い!!」 「…たとえ我が罪が重くなろうとも… 駆け寄らずにはおれぬというわけか この子供の許(もと)へ。」 「…兄様…」 視線だけを落として、一護を見た。 「…解るぞルキア… 成程この子供は 奴によく似ている…」 ルキアが目を見開く。 ガッ 「!」 足元を捕まれた。 「…もう死んでるだの… 誰ソレに似てるだの… 俺のいねー間に、勝手にハナシ進めてんじゃねーよ…!」 そう強がりながらも、一護の息は細く、今にも消え入りそうだった。 「…一…」 ルキアがほっとしたもつかの間。 「…放せ小僧。」 兄の冷たい声色に、身が竦んだ。 「…聞こえねーよ… こっち向いて喋れ… ってか何だよ、てめー… 昨日の女もてめーの仲間か?」 白哉が眉を寄せた。 「女だと?」 すっと、一護に視線を落とした。 「…が、貴様に何かしたのか?」 「あ…? よくわかんねえよ… 変な術みたいなの使ってたけどな…」 裾を掴みながら、白哉を睨みつける。 「…そうか。」 言うより早く、白哉が斬魄刀を振り下ろした。 「兄様…!!」 ルキアが思わず、目をきつく閉じた。 バチィッ… 恋次が目を丸くした。 (何だ…? 今…) 確かに、朽木白哉が一護の腕を切り落としたと、そう思った。 一護の腕に触れる直前で、白哉の刀が弾かれた。 予想した通りの出来事に、白哉が小さく息を吐く。 (… この子供を助けたか…) くるっと、踵を返す。 「ルキア…!」 一護が身を捩った。 「動くな!!」 ルキアの声が、辺りに響く。 「…そこを一歩でも動いてみろ…! 私を…追ってなど来てみろ…」 振り返ったルキアの瞳に、涙が浮かんでいた。 「私は貴様を、絶対に許さぬ…!」 その表情に、頭が真っ白になった。 「いずれ死ぬ命、そこに伏して一瞬でも永らえるがいい。」 サァアアア 雨が降り出した。 「帰るぞ、恋次…」 「え? あ、はい…」 恋次が少し驚いたように、斬魄刀をかざす。 「解錠!」 その声に、どこからともなく門が現れる。 一度だけ振り返って、ルキアはその向こうへ消えた。 「ぁあああああああぁ!!!」 一護の絶叫が、雨音に交じって響いた。 |