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「あれー?」

 草鹿やちるが首を傾げた。

 どこぞの隊舎前に到着した、やちると

 四と、書いてあるのが見える。

「……………」

 が黙って肩を落とした。

「せ、せっかくだから、卯ノ花さんに挨拶して行こうよ! すごいいい人なんだよ。」

 やちるに続いて、四番隊の敷居を跨いだ。

 小さく、溜息。

 六番隊舎への道は、長そうである。





「卯ノ花さーん!」

 一番奥の部屋まで進んで、やちるが元気に声をかける。

「こんにちは、十一番隊副隊長。」

 卯ノ花と呼ばれた女性が振り返った。

「…ども。」

 がぺこりと頭を下げる。

 卯ノ花はにこりと微笑んだ。

「こんにちは、さん。 四番隊舎へようこそ。 私は、四番隊隊長・卯ノ花 烈です。」

 少し胸が詰まるような、そんな錯覚を覚えた。

 人に微笑まれるのには、慣れていない。

「今日はどうされたのです?」

 卯ノ花は、やちるに目線を合わせるために屈んだ。

「ううん、今日は何でもないんだ。 とサンポしてるの。」

「随分、親しくなられたみたい… 良かったですね。」

 やちるの頭を撫でながら、にこりと微笑む。

 その様子を見て、少し苦しかった。

 四番隊長・卯ノ花烈。

 優しく、愛情深く、まるで母親のようだと、そんな風に思う。

 ついっと、袖を引かれた。

「どしたの、?」

 やちるが心配そうに、首を傾げて自分を見上げている。

 は小さく首を振った。

「…十一番隊の連中は、四番隊を好いていないと聞いたからな。 少し驚いただけだ。」

「みんなよく言うよね。 うちって喧嘩っ早いから、いつも怪我ばっかりなんだよ。 四番隊にはすごくお世話になってるのに。」

 やちるがぷぅと、少し頬を膨らませた。

さん… いえ、さんと呼んでもいいですか。」

 卯ノ花は立ち上がって、を見据えた。

「お顔色が優れませんね。 少し休んで行かれますか?」

 すっと、の頬に触れた。

 ビクッと、が体を振るわせた。

「だ、大丈夫だ…!」

 驚いたように、一歩下がる。

 の頬に触れていた卯ノ花の手は、そのまま宙をそっと掴んだ。

「驚かせてしまったようですね。」

 首を竦めて、穏やかに微笑む。

「いつでもいらして下さい。 力になりますよ。」

 優しい声。

「………ん。」

 胸が苦しい。

「…行こう、やちる。」

 卯ノ花に背を向ける。

 苦手だ。

 いい人だとわかったが、どうも苦手だ。

 優しくされるのにも、微笑まれるのにも、慣れていない。

「ん。 じゃ、またね! 卯ノ花さん!」

「どこまで行くのです?」

「六番隊舎! が用事があるんだって!」

 元気にそう言うやちるに少し躊躇ったが、卯ノ花は声をかけた。

「送りましょうか?」

「大丈夫ー!」

 笑顔で手を振るやちるに、笑顔と同時に溜息が零れる。

「…お気の毒に。 おそらく辿り着けないでしょう。」


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