「ちょっ… 待って下さい! 朽木隊長は絶対に通すなって、隊長が…!」 松本の声。 騒がしいその様子に、日番谷もも、隊主室のドアに視線を投げる。 ガラ 「。」 十番隊の隊主室への突然の来訪者は、朽木白哉。 いつも無表情な彼が、めずらしく怒っているように見える。 「朽木! らしくねえな、いきなり入って来るなんて… 何の用だ!?」 日番谷が眉を寄せた。 朽木白哉は日番谷へは目もくれずに、の胸元を締め上げた。 「…自分が何をしたのか、わかっているのか?」 その様子で、おそらく黒崎一護と接触をしたのだろうと予想できた。 「もちろんわかっている。 だから、この手を放せ。」 自分を睨み上げる、黒曜石の瞳。 白哉はわずかに眉を寄せた。 「…来い。」 胸倉を掴んだまま、白哉がを連れ出そうと踵を返す。 「待てよ! を放せ、朽木!」 日番谷が二人の間に割って入った。 「兄には関係ないと、以前にも言ったはずだ。」 白哉の霊圧が上がる。 「関係あるないで済む問題じゃねえ!」 日番谷が白哉の手を払い、を引き寄せた。 「てめえはをどう思ってんだよ!」 日番谷の口から出た、突然の言葉。 驚いたのはである。 「ひ、日番谷! そんな事はどうでも…」 「よくねえ!」 の言葉を遮って、日番谷が続けた。 「防人だとか封印だとか、てめえは全部知ってんだろ?」 日番谷の声。 白哉は眉一つ動かさない。 「飯や寝床の面倒は見るし自分の側に置きたがる。 接吻かまして抱き締めたと思ったら、そのまま突き放す…」 言いながら、何故だろう、すごく胸が苦しくなる。 ぎゅっと、強く拳を握った。 「俺がてめえなら…! …にあんな顔させねえ。」 泣きたいのを我慢しているような、無理やり笑っているような表情。 胸が痛い。 「大体連れてってどうする気だ? また牢にぶち込むのか?」 「…牢へは戻さぬ。 他の者が使っている。」 おそらく妹であろうと、がわずかに眉を寄せた。 「は現世で人間の魂魄に術をかけた。 別の罰を受けるだろう。」 「…だったら尚更、をてめえには渡せねえな。」 チャキっ… 日番谷が、斬魄刀の柄を握る。 「兄こそ何故、に構うのだ。 我々の問題だ。 放っておいてもらおうか。」 「バカ野郎。 中途半端に関わって、ハイそーですかなんて、そんな簡単に投げ出せるかよ。」 朽木白哉が溜息を吐いた。 「は…」 一度、を見る。 「…私の婚約者だ。」 「………」 突然の声に、日番谷は言葉を失った。 「私がどう扱おうと、兄には関係ない。」 冷たく言い放って、を真っ直ぐ見据える。 「、忘れるな。」 少女が、きゅっと唇を噛んだ。 「防人が歩む道… 血に染まらぬ道はどこにもないと言う事を。」 トクン ――― 「…巻き込まずに済んだ者を巻き込んだと、後悔していたのはお前ではないか。 繰り返すつもりか?」 トクン ――― 「…決めるのはお前だ。 私はもう何も言わぬ。」 そう言葉を残して、朽木は十番隊の隊主室を後にした。 が、ぎゅっと強く拳を握った。 シズマレ 唇を噛み締める。 「隊長… 隊長、しっかりして下さいってば。」 松本に肩を叩かれて、日番谷は我に返った。 「こ…こ… 婚約者…? おい、! どう言う…」 が息を吐いた。 「…私が指輪を持っている限り… 婚約者と言う肩書きは消えぬようだな…」 ぎゅっと、が強く拳を握った。 「………ありがとう、日番谷。」 にこりと、微笑んだ。 「…泣きたくなったら……… お前を訪ねてもいいか?」 「………。」 哀しそうなその声。 日番谷には、それ以上何を聞くことも、隊主室を出て行くを引き止める事も出来なかった。 |