4


「ちょっ… 待って下さい! 朽木隊長は絶対に通すなって、隊長が…!」

 松本の声。

 騒がしいその様子に、日番谷もも、隊主室のドアに視線を投げる。

ガラ

。」

 十番隊の隊主室への突然の来訪者は、朽木白哉。

 いつも無表情な彼が、めずらしく怒っているように見える。

「朽木! らしくねえな、いきなり入って来るなんて… 何の用だ!?」

 日番谷が眉を寄せた。

 朽木白哉は日番谷へは目もくれずに、の胸元を締め上げた。

「…自分が何をしたのか、わかっているのか?」

 その様子で、おそらく黒崎一護と接触をしたのだろうと予想できた。

「もちろんわかっている。 だから、この手を放せ。」

 自分を睨み上げる、黒曜石の瞳。

 白哉はわずかに眉を寄せた。

「…来い。」

 胸倉を掴んだまま、白哉がを連れ出そうと踵を返す。

「待てよ! を放せ、朽木!」

 日番谷が二人の間に割って入った。

「兄には関係ないと、以前にも言ったはずだ。」

 白哉の霊圧が上がる。

「関係あるないで済む問題じゃねえ!」

 日番谷が白哉の手を払い、を引き寄せた。

「てめえはをどう思ってんだよ!」

 日番谷の口から出た、突然の言葉。

 驚いたのはである。

「ひ、日番谷! そんな事はどうでも…」

「よくねえ!」

 の言葉を遮って、日番谷が続けた。

「防人だとか封印だとか、てめえは全部知ってんだろ?」

 日番谷の声。

 白哉は眉一つ動かさない。

「飯や寝床の面倒は見るし自分の側に置きたがる。 接吻かまして抱き締めたと思ったら、そのまま突き放す…」

 言いながら、何故だろう、すごく胸が苦しくなる。

 ぎゅっと、強く拳を握った。

「俺がてめえなら…! …にあんな顔させねえ。」

 泣きたいのを我慢しているような、無理やり笑っているような表情。

 胸が痛い。

「大体連れてってどうする気だ? また牢にぶち込むのか?」

「…牢へは戻さぬ。 他の者が使っている。」

 おそらく妹であろうと、がわずかに眉を寄せた。

は現世で人間の魂魄に術をかけた。 別の罰を受けるだろう。」

「…だったら尚更、をてめえには渡せねえな。」

チャキっ…

 日番谷が、斬魄刀の柄を握る。

「兄こそ何故、に構うのだ。 我々の問題だ。 放っておいてもらおうか。」

「バカ野郎。 中途半端に関わって、ハイそーですかなんて、そんな簡単に投げ出せるかよ。」

 朽木白哉が溜息を吐いた。

は…」

 一度、を見る。

「…私の婚約者だ。」

「………」

 突然の声に、日番谷は言葉を失った。

「私がどう扱おうと、兄には関係ない。」

 冷たく言い放って、を真っ直ぐ見据える。

、忘れるな。」

 少女が、きゅっと唇を噛んだ。

「防人が歩む道… 血に染まらぬ道はどこにもないと言う事を。」

トクン ―――

「…巻き込まずに済んだ者を巻き込んだと、後悔していたのはお前ではないか。 繰り返すつもりか?」

トクン ―――

「…決めるのはお前だ。 私はもう何も言わぬ。」

 そう言葉を残して、朽木は十番隊の隊主室を後にした。

 が、ぎゅっと強く拳を握った。

シズマレ

 唇を噛み締める。

「隊長… 隊長、しっかりして下さいってば。」

 松本に肩を叩かれて、日番谷は我に返った。

「こ…こ… 婚約者…? おい、! どう言う…」

 が息を吐いた。

「…私が指輪を持っている限り… 婚約者と言う肩書きは消えぬようだな…」

 ぎゅっと、が強く拳を握った。

「………ありがとう、日番谷。」

 にこりと、微笑んだ。

「…泣きたくなったら……… お前を訪ねてもいいか?」

「………。」

 哀しそうなその声。

 日番谷には、それ以上何を聞くことも、隊主室を出て行くを引き止める事も出来なかった。


back