「…何て…?」 ぐっと、恋次が牢の格子を掴んだ。 震えた声で、続ける。 「朽木隊長… どういう…」 「きいた通りだ。 何度も言わせるな。」 恋次とは対照的に、白哉の声は落ち着いていた。 「第一級重課罪 朽木ルキアを極囚とし、これより二十五日の後に真央刑庭に於いて極刑に処す。」 恋次は驚きのあまり言葉を失った。 「それが尸魂界の最終決定だ。」 ルキアを見据えて、言い放った。 ルキアがわずかに、目を伏せる。 「お前と言葉を交わすのもこれが最後となろう、ルキア。」 白哉が踵を返す。 「次に会うのは処刑台だ。」 白哉が去った牢に、恋次の声が響く。 「オラァ! ヘコんでんじゃねえよ! またそのうちコロッと決定が変わるかもしんねーだろ!」 「…別に、ヘコんでなどおらぬ。」 ルキアは恋次に背を向けて座ったまま、そう言った。 「ウソつけ! バリバリヘコんでんじゃねえか!! コッチ向け、コラァ!!」 恋次が乱暴に格子を蹴り付けた。 「…中央四十六室の裁定だぞ。 覆るわけがなかろう。」 ルキアが続ける。 「気にするな。 こうなることなど最初からわかっていた。 今更…」 「…ルキア…」 恋次が眉を寄せる。 と。 「なんてな!」 ルキアがイタズラを思いついた子供のように、にっこり笑って振り返った。 「あ!?」 気が抜けたのは恋次である。 「極刑だと? そんな裁定が下ったところで、本当に私がヘコむと思うか!? そんなもの! 却って脱獄のし甲斐が増したというものだ!」 がたっと、椅子から腰を上げた。 「んん? 何だ、その顔は?」 恋次を見下すように、見やる。 「随分と心配してくれたようだが… 私の心配をするより、自分のマユ毛の心配でもしてた方がお似合いだぞ? ん?」 挑発するように、続けた。 「この、おもしろイレズミマユ毛様が。」 こうまで言われて、腹が立たない訳がない。 「だれが心配なんかしてるかよ!!」 がちゃっと、ドアを開ける。 「もう知るかボケ! テメーなんか、とっとと処刑されろ!!」 バタン 必要以上に大きな音を立てて、力一杯、ドアを閉めた。 (…クソが…! 脱獄だ!? そんなことできるワケ無えだろが! てめーは極刑だぞ、極刑!!) 「ちっ…」 恋次が小さく舌打ちをする。 (極刑か。 …本当に… 本当にこれでいいのかよ、朽木隊長…?) ルキアに刑を告げた後、白哉は一人、隊舎内を歩いていた。 「随分冷静やったなあ、六番隊長さん。 ご立派ご立派!」 突然の声に、眉を寄せた。 「自分の妹が死ぬってのにあの冷徹さ。 サッスが六番隊長さん。 死神の鑑!」 「バカ言えや。 死神で死ぬだの何だのにビビってんのは、テメーと九番隊長ぐれえのモンだ。」 「えー そうかァ?」 二人のやり取りに眉を寄せて、白哉が口を利く。 「…隊長格が二人も揃って副官も連れず… 私に何の用だ?」 「いややなあ。 妹さんが処刑されるってンで、六番隊長さんがヘコんでへんか、心配しててんやんか。」 にこにこと笑顔でそう言うのは、三番隊隊長の市丸ギン。 「…兄等には関係の無い事だ。」 白哉が冷たく言い放つ。 「ヘコむ訳ゃ無えよな。 名門にゃ、罪人の血は邪魔なんだからよ。」 十一番隊長・更木剣八が、挑発するように言う。 「…ほう。 貴族の機微が平民に理解できるとは、意外だな。」 白哉が、更木を睨んだ。 「そうでもねえよ。 俺ぁ昔っから気が利く方なんだ。 どうだ? 気が利くついでに…」 髪に編み付けている鈴が、小さく音を立てる。 「さっきの罪人… 処刑より先に俺が首を落としてやろうか!?」 ちりちりと、空気が震えた。 「ほう、知らなかったな。 兄程度の腕でも、人の首は落とせるのか。」 白哉の霊圧がわずかに上がった。 「試してやろうか?」 剣八が睨む。 「試させて欲しいのか?」 一触即発の空気。 それを破ったのは市丸の行動だった。 本気で暴れだしそうな更木を縛り上げて、一瞬のうちに遠く、屋根まで離れた。 「カンニンしてや、六番隊長さん!」 「オイコラ、市丸! 放せてめえ!! あいつを斬らせろ!! 斬らせろっ!!」 市丸に縛り付けられたまま、更木が暴れている。 それを無視して、市丸は白哉を見やった。 「少なくともボクは、あんたのコト怒らす気は無かってん! ただ…」 かすかに、市丸の霊圧が上がった。 「…もう少し素直になりーや。 それだけで、君の周りの人は、救われるんやないか?」 この言葉に、白哉が眉を寄せた。 「ほんなら、妹さんと… ちゃんによろしゅう。」 その言葉を残して、市丸は更木共々姿を消した。 白哉が、小さく息を吐いた。 「………。」 噛み締めるように呟いて。 何事もなかったかのように、踵を返して歩き出した。 |