「…詠唱破棄の初級鬼道… この威力は何だ…?」 浮竹の声に、京楽が首を竦めた。 「…だから、封印されてたのかな。」 その呟きは誰にも届かない。 ボタッ ボタボタ 咄嗟に離れたつもりだったが、避け切れなかったのだろう。 死覇装は裂け、庇った左腕から血が滴り落ちる。 白哉が膝を付いた。 「…二度は言わないぞ、白哉。」 が眉を寄せた。 「…婚約を解消して、私を自由にしろ。」 朽木白哉が、目を伏せる。 「…なるほど。 少々甘く見過ぎていたようだ。」 ゆっくり立ち上がる。 一気に、霊圧が上がった。 「…散れ。」 「! 隊長、やめ…!!」 恋次が叫んだが、そちらへは耳も貸さない。 「…千本桜。」 無数の光が、宙を舞う。 「!」 が息を飲んだ。 「きゃぁぁあっ!!」 少女の小さな体を、無残にも幾重も切り刻む。 「! !!」 やちるが叫んだ。 飛び出そうとした斑目一角を、綾瀬川弓親が必死に押さえる。 「待て、一角! 僕達が手を出した所で、敵う相手じゃない!」 「うるせえ!! 黙って見てられるか!」 「心配ねえよ。」 更木が細く笑った。 「残像だ。 の野郎、ちゃんと避けたみたいだぜ。」 白哉の斬魄刀を防ごうと、咄嗟に霊圧を上げたのだろう。 その首に付けられていた、封霊環が焼き切れている。 瞬歩で斬撃の届かない場所まで下がって、はほっと胸を撫で下ろした。 「!」 と、背後に霊圧を感じる。 いつの間に、移動したのだろう。 「…それで凌いだつもりか。」 白哉が斬魄刀を振り下ろす。 「それで背後を取ったつもりか…!」 少女が浅打を薙ぎ払った。 「!!!」 一瞬、目を奪われた。 朽木白哉のその腹に、大きな傷跡があった。 ギィン 弾かれた浅打が、宙を舞う。 驚く少女を、容赦なく組み敷いた。 斬魄刀の切っ先を、その咽元に突き付ける。 思わず、息を飲んだ。 「…勝負あったな。」 が、何か言いたそうな目で白哉を見上げた。 「そこまでじゃ!」 元柳斎の一喝が辺りに響く。 「勝負はあった。 これ以上の戦闘は許さん。」 目を細めて、少女を見やる。 「のう、。 もうよいじゃろう。」 白哉が小さく息を吐いた。 斬魄刀を鞘に収めて、>に手を差し伸べる。 は何も言わず、強く唇を噛み締めていた。 悔しいからではない。 胸が痛い。 全く動こうとしない。 白哉が無理やり、その体を起こした。 「………白哉…!」 少女の声を遮るように、朽木白哉が首を振った。 「…指輪は持っているな?」 の声を待たずに、少女の死覇装の帯に手を滑り込ませ、指輪を手に取る。 「用件を一つ飲む。 そう約束をしたな。」 が眉を寄せた。 「…ああ。 お前の要求は何だ?」 不服そうな少女。 白哉は、その小さな手を取り、膝を折った。 「朽木家 二十八代目当主の名の元に… お前を我が妻に迎える。」 あまりに突然すぎるその言葉に、は言葉を失った。 はもちろん、見物していた全員が、目を丸くする。 「ルキアの極刑が済んだ後、式を挙げる。」 の薬指に、指輪を嵌めた。 「…断る事は許さぬ。」 が唇を噛む。 震えた声で、ゆっくり言葉を紡いだ。 「…それは、命令か?」 白哉が眉を寄せた。 「…そうだ。」 「そうか…」 がぎゅっと拳を握った。 白哉の手を、振り払う。 「バカにするな…!!」 そう吐き捨てて、は姿を消した。 おそらく、瞬歩を使ったのだろう。 その姿を追う事は出来なかった。 朽木白哉が小さく息を吐いた。 卯ノ花が、そっと歩み出る。 「朽木隊長、こちらへ。 治療を行います。」 「…必要ない。」 卯ノ花がにこりと笑った。 「強がりも程ほどになさって下さい。 さんの鬼道を受けたのです。 本当は立っているのがやっとなのでしょう。」 一瞬、辺りに冷ややかな空気が流れた。 「…相変わらずね、卯ノ花隊長。」 松本乱菊が首を竦めた。 思えば、始めて会った時から、卯ノ花はこう言う人柄であった。 「あら?」 先ほどまで側にいたはずの男がいない。 「ギン? どこ行ったのよ…?」 松本の声が、風に乗った。 |