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「…。」

 やちるとのんびり歩いている途中、ものすごい殺意を感じた。

 やちるを突き飛ばし、自身は逆方向へ飛ぶ。

「無礼者! 名乗れ!!」

 先ほどまで自分とやちるがいた場所。

 そこには一振りの斬魄刀を手にした、少女が佇んでいた。

「あー、砕蜂だ!」

 やちるの場違いな呑気な声。

 砕蜂はに飛び掛った。

(蜂だと…?)

 は落ち着いた様子で、砕蜂の斬魄刀を危なげなく交わしている。

「防人一族… 王族直下の特務、第一任の一角を担う家… 滅んだと聞いたが、まだ生存者がいたか。」

 砕蜂の声。

「何故、表舞台に姿を現した? 尸魂界(ソウル・ソサエティ)でも、その存在は厳重機密だったはずだ!」

 は眉を寄せた。

 めずらしく穏やかな気分でいたのに、今の気分は最悪である。

 防人を知る者。

(…隠密か? 下級貴族が、ベラベラと…)

 が小さく舌打ちをした。

 砕蜂の攻撃を交わしながらそんな事を考えていると。

 とん。

 いつの間にか壁際に追いやられていた。

 砕蜂は笑った。

「防人、恐れるに足らず!」

 斬魄刀を振り下ろす。

「だめー!」

 やちるが叫んだ。

振り下ろされる斬魄刀。

手にしていた斬魄刀が脈打った次の瞬間。

目の前に散る、真紅。

愛しい者を斬ったのは、他ならぬ自分。


「!!!」

バッ。

 砕蜂が弾けたようにから離れた。

(…何だ、この殺気は………)

 に睨まれた。

 それだけなのに、胸を一突きにされたような、そんな錯覚を感じた。

 左手が震える。

「くっ…! 馬鹿な! こやつに霊圧など…!」

 十一番隊の隊長である更木は、その巨大な霊圧を制御し切れず、普段から霊圧を垂れ流している感じ。

 対しては。

 目に映らなければ、その場にいる事にも気付かないだろう。

 霊圧が微弱というか、全く感じられないでいた。

 それなのに。

 一瞬で、霊圧が膨れ上がった。

 その巨大さは、更木の比ではない。

 の斬魄刀は腰に刺さったままなのに。

 この斬魄刀を、抜けるはずはない。

 柄と鞘を鎖でグルグル巻き付けてある。

 抜けるはずはないのだ。

 砕蜂は言葉を飲み込んだ。

ゾク。

 自分の心臓の鼓動だけが、耳に響く。

 からの殺意に、瞬き一つ出来なかった。

 は笑った。

「…殺しちゃおうか、ねぇ?」

 氷のような、冷たい笑顔。

「…輝け、月華(げっか)。」

「堪忍や。」

 いつの間に側に来ていたのだろう。

 銀糸の髪の男。

 の腕を掴んでいる。

「二番隊長さんもあかんって。 女の子同士は傷付け合うもんやない、仲良くしてはればええんよ。」

「…市丸、何故ここに?」

 市丸と呼ばれた男は、不思議そうに首を傾げて口を利いた。

「…三番隊舎(うち)の前や、ココ。」

 すっと指差したそこには、三と書かれた隊舎。

「さ、怪我する前に帰りなはれ。」

 砕蜂は小さく舌打ちして、その場から消えた。

 市丸はにこりと笑った。

「立ち話もなんやし、ちょっと寄ってってや。 茶菓子もあるんや。 やちるちゃんも。」

 二番隊長・砕蜂に襲われ。

 三番隊長・市丸ギンに、三番隊舎へ招かれた。

 六番隊舎への道は、長く、険しい。


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