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「…っ!」

 は一人、瀞霊廷内の廊下で、欄干に寄りかかっていた。

 嵌められた指輪を外そうと試みるが、指が震えて、中々外せない。

 は幼い頃から朽木白哉を知っているが。

 まさか、朽木白哉が。

 皆が見ている前であんな事を言うなんて。

 プロポーズではないか。

「…っ…!」

 視界が滲む。

 涙が零れた。

 戦いの最中、目に映った白哉の傷跡。

 心が痛い。

 粉々に砕かれたように、痛い。

 白哉に出会っていなければ…

 きっと、こんな想いをする事もなかっただろう。

 悔しかった。

 それでも。

 震える指では、指輪を外す事が出来なくて。

「くそっ…! 外せぬように細工をしたか…!」

 が唇を噛んだ。

 と、月華を逆手に握った。

 指輪の嵌められた左手薬指。

 その切っ先を突き付ける。

 ぐっと、柄を握った。

ボタ。

 一雫の血が、床に散った。

「アカン、て。」

 背後から、月華の刃を握る。

「外せんから、斬り落とす… 極端すぎるんとちゃうか、 ちゃん。」

 市丸だった。

「君が傷付いて、喜ぶ人がどこにいるんや。」

 を嗜めるその声は優しい。

「にしても早いなぁ〜。 追いつけるか心配やったんやで。」

 の小さな手を握って、そのまま背後から抱き締めた。

「何をする…!」

 身を捩るに、市丸は小さく首を振った。

「カンニンや。 女の子が泣いてる顔は、あんまり見たないんや。」

 月華の刃を握った時に斬ったのだろう。

 市丸の掌は、血で濡れていた。

「ボクは、どちらかと言うと楽天家やから物事を深く考えるんは苦手やし、ちゃんを傷付けんで上手く話しを聞いたる事も出来ん。 せやけど…」

 市丸の手が、ぎゅっと、少女の小さな手を握った。

 白哉のとも、日番谷のとも違う、その手。

「こうして、抱き締める事は出来る。 思い詰めてる時に、一人でおるのはアカン。 もっと周りを頼ったら、楽になるんやないのん?」

 何故だろう。

 今こうして自分を抱き締めているのは市丸なのに。

 何故だろう。

 日番谷に抱き締められた時の事を。

 そして。

『泣きたい時は、アタシを呼んで下さい。』

 首を傾げたに、にこりと笑って続けた。

『アタシなら、アナタを抱き締める事も、アナタの涙を止める事も出来ますよ。』

 そう言って、浦原喜助が抱き締めてくれた事を思い出した。


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