サァァアアア 雨の降る音だけが、静かに辺りに響いていた。 場所は、瀞霊廷から大分離れた、人の寄り付かぬような偏狭の地。 かつて、防人一族が住んでいた場所である。 雨の中、朽木白哉はそこに立っていた。 もうどれ程そうしているだろう。 防人の里の跡地。 二百年前のあの日、この場所は血に染まっていた。 白哉は小さく息を吐いた。 「………。」 この場所に来れば、何か得られると思っていたが。 「!!」 白哉が息を飲んだ。 空が、ひび割れて行く。 その中から顔を覗かせたのは。 「大虚(メノス)…」 との決闘で傷を負ったと言えど、やはり一隊長。 白哉は焦り取り乱す事もなく、大虚の出方を待った。 (来るか…) 斬魄刀の柄を握って、霊圧を開放する。 ザン。 まるで護るかのように、それは大虚と白哉の間に立ちふさがった。 ただ一撃で傷を負った大虚は、何をする訳でもなく大人しく帰って行った。 「…何をしている? こんな所で。」 ゆっくり振り返って、が眉を寄せた。 「駆け付けるのが随分早かったな。」 白哉が口を利いた。 二人の体を、雨が打つ。 が眉を寄せた。 「怪我をしているのに、それで大虚の相手をするつもりだったのか?」 白哉が、じっと少女を見据えた。 昨日の決闘で焼き切れたはずの封霊環。 少女の首には二重で新しい物が付けられており、同じものが両手首にもある。 白哉が眉を寄せた。 そうまでして、の霊力は押さえねばならないのか。 「…始めて…」 白哉のその言葉は、少女の問いとは無関係だった。 『…黙っているだけだと、も何も言いませんよ。』 恋次が、そんな事を言っていたのを思い出した。 「始めて… 私が、お前を護ると約束をしたのは… この地であったな…」 が不思議そうに白哉を見据えた。 「どうした? 白… ――― 」 が目を見張った。 朽木白哉、その体が崩れた。 側にいたは、慌ててその小さな腕で白哉を抱き締めようとするが。 突然の重みを支える事は出来ず、華奢な少女は朽木白哉を抱き締めたまま、その場に座り込んだ。 「白哉…」 その体を揺するが、完全に気を失っているのだろう。 動く気配すらない。 こんな無防備な姿を見せるなんて、信じられなかった。 濡れた衣から伝わる体温は、驚くほど冷たい。 長い間、雨に打たれていたのだろう。 「バカ者…! 何をやっているんだ…」 が、唇を噛んだ。 卯ノ花の治療を断ったのだろう。 が負わせた傷は、ろくな手当てもされていないまま、血を滲ませている。 ルキアの元を去り、丁度この場所へ向っていて、本当によかった。 大虚と戦闘が始まるより先に、それを止める事が出来て、本当によかった。 今の白哉なら、無茶をしかねない。 ぎゅっと、その体を抱き締める。 二百年前、同じように白哉を抱き締めていた。 その時は。 白哉は腕ではなく、腹に傷を負っていて。 自身も、血に濡れてボロボロだった。 ただ。 同じように、雨が降っていた。 ――――― |