『…雨は好きだ。 雨は、全てを洗い流してくれる。』 あの時のお前の声は、私を捉(とら)えて放さない。 私は、心に強く決めた。 誰よりも、強くなろうと。 サァァアア 微かに耳に届く、雨の音。 朽木白哉はゆっくり目を開けた。 見慣れた天井が、その目に映る。 「………バカ者。」 突然の声に目を向けると。 「…」 眠っている自分の側に、少女が座っていた。 「…私の寝室で何をしている?」 「目の前の バカ に文句を言ってやろうと、起きるのを待っていた。」 どこか不機嫌そうに、は眉を寄せていた。 「そうか…」 寝室の外に目を向ける。 静かに、雨が降っていた。 「…防人の跡地(あんな所)で何をしていたのだ?」 が静かに問う。 白哉に倣うように、部屋の外に視線を移した。 しばらく待つが、白哉は何も言わない。 「…何故、言葉をくれない………」 が眉を寄せた。 「私は、不安でたまらなくなる………」 黒曜石の瞳が揺れた。 「側にいても、離れていても… 気が付けば、お前の心配ばかりしている… また、無茶をしているのではないか、と。」 目を覚ましてすぐに、左腕の傷が消えている事に気付いた。 身体のだるさも、もうない。 おそらく、が治癒力を使ったのだろう。 「…顔色が優れぬな。」 白哉の突然の声に、がわずかに首を傾げた。 「無理をさせた… すまぬ………」 気持ち、心が軽くなった。 「よい… 無理をするのにも、もう慣れた。」 が細く笑った。 「誰か家の者を呼んで来よう。 お前の顔も見た事だし、私はもう行…」 立ち上がろうとして、手首を捕まれた。 「白…」 首を傾げるより先に、強く引っ張られる。 布団の中に引きずり込まれて、そのまま強く抱き締められた。 「白哉、何を…」 いつもなら、黙ったままだっただろう。 『…黙っているだけだと、も何も言いませんよ。』 「…どこへも行くな。」 「え?」 は耳を疑った。 「此処に… 私の側にいろ。」 ぎゅっと、少女を抱き締める腕に力を込める。 「…それは命令か?」 「…そうだ。」 は目を伏せた。 「わかった… しばらくは、このままでいるよ…」 再び眠りに就いたのか、白哉の返事は無い。 雨の音が、伝わる心音に交じって、少女の耳に届いた。 |