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「………」

 すっと、目を開けた。

「? 白哉…?」

 部屋の主の姿はどこにもない。

 部屋の外を見ると、雨はすっかり上がっていた。

 あのまま一晩、経ってしまったようだ。

 まだシーツに残る温もり。

 名残おしそうに、は身体を起こした。

 小さく息を吐く。

「…お前が、どこにも行くなと… そう言ったではないか………」

 おそらく、仕事へ出かけたのだろう。

 病み上がりに平気で無理をする。

 何を考えているのか、さっぱりわからない。

『…どこへも行くな。』

「………私の台詞だ、バカ者。」

 がぎゅっと、シーツを握った。













 が目をぱちくりさせた。

「何だ、怖い顔をして?」

 十番隊の執務室。

「松本〜、何かあったのか?」

 不機嫌な日番谷に首を傾げて、副官の松本にその訳を訊ねる。

「…アンタが悪いのよ。 じゃ、あたし席外しますから。 どうぞ、ごゆっくり〜。」

 執務室から出て行った松本に、がますます訳がわからず首を傾げる。

「私が悪い?? なぁ、どうしたんだ、日番谷?」

 二人きりになって、日番谷がやっと書類から目を離した。

 じぃっと、を見据える。

「…何で、朽木と決闘する事を黙ってたんだ?」

「私は、誰にも言っていない。 バラしたのは阿散井だ。」

 その答えに、日番谷が更に眉を寄せる。

「日番谷… 何故怒るんだ? 私と白哉の問題だろう?」

 の左手薬指に、指輪が光る。

「…別に決闘の事は、お前等の問題だ。 俺がとやかく言う筋合いはねえよ…」

 日番谷が続ける。

「………"姫椿"… それ以外の事なら答えるって、言ったよな?」

「ああ。 何が聞きたい?」

 真っ直ぐにを見据えて、日番谷が言葉を探す。

「…"封霊主"………」

 突然の言葉に、の呼吸が止まった。

 日番谷は続ける。

「お前等が戦っていた時、俺は尸魂界の秘密資料を漁っていた。」

 中央四十六室の近くに、厳重機密書類は保管されている。

 確かにその場所なら、が戦っていたとしても、その霊圧は届かないだろう。

「"防人"に付いて少しだけわかった。 古よりの"封印主"一族… 何かを封印していると書いてあった。 …だが………」

 日番谷の声が、胸に刺さる。

「…お前が封印されていた理由……… それに付いての資料は、一つも見つからなかった。」

ドクン。 ―――

「答えろ、… "封霊主"って何だ?」

 決闘の際、封霊環が焼き切れたとの話を聞いた。

 今、の首には新しい物が付けられている。

 同じものが、両手首にもある。

 ここまでして、何故の霊力を封じなければならないのか。

 は、辛うじて声を絞り出した。

「…どちらに、招かれた?」

 その声は震えている。

「月華か姫椿か… どちらが、お前に何を話したんだ?」

チリッ

 空気が震えた。

シズマレ ―――

ズキ…ィッ

 激しい頭痛に襲われた。

 耐え切れず、はその場に膝を折って頭を抱える。

「! …!」

 日番谷が駆け寄った。

「…だい、じょうぶ、だ………」

 が小さく首を振る。

 気を抜けば、意識が途切れそうだった。

 くしゃっと、前髪を握る。

「…護りたかっただけなんだ………」

 日番谷が眉を寄せた。

 が続けた。

「誰も… 誰も傷付けたくない…! それだけなんだ… だから………」

 ―――――。

「だから、自ら… 封印される道を選んだんだ………」

 自分を支える日番谷の手を、ぎゅっと握る。

 その体は、小さく震えていた。

「…悪い。」

 日番谷が思っている以上に、複雑な事情があるのだろう。

 を傷付けるつもりなんてなかったのに、結果的にそうなってしまった。

 日番谷は、強く、唇を噛んだ。

『アレは弱い…』

 姫椿がそう言った意味が、少しだけわかった気がした。


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