「はい、どうぞ。」 雛森がにこりと笑って、茶菓子と湯飲みを載せたお盆をテーブルに置いた。 五番隊の、休憩室。 そこには、藍染と雛森、そして日番谷との姿がある。 休憩を取ったばかりだったが、日番谷が訪ねて来た理由は大体わかる。 藍染は雛森を呼んで、もう一度休憩を取った。 「どうかしたの? 二人揃って訪ねて来たりして。」 ソファに座りながら、雛森が首を傾げる。 は、少し眉を寄せて、隣に座る日番谷をじっと見た。 日番谷は何も言わない。 藍染がにこりと笑った。 「君。」 突然名を呼ばれて、藍染を見やる。 「なんだ、藍染?」 藍染は、自分の眉間を指で指した。 「ココ。 皺が寄ってるよ。 どうかしたのかい?」 「…別に何も………」 そう言いかけたが、毒気の無い笑顔に、言葉を濁す。 藍染が笑顔で続ける。 「この羊羹、瀞霊廷で一番人気の店で買ったんだ。」 お盆の羊羹を指差す。 「甘い物は苦手かな?」 「いや、別に…」 藍染が笑顔で勧める。 断ろうと思ったが、毒気の無い笑顔に溜息だけが零れた。 「…いただきます。」 ゆっくり、羊羹を口へ運ぶ。 は目を丸くした。 思わず、藍染を見やる。 「…美味いな。」 の言葉に、藍染はにこりと笑った。 「気に入ってもらえて良かったよ。 今日やっと手に入れる事が出来たんだ。」 藍染の笑顔に、溜息が一つ零れた。 「…お前も、何も言わないのだな。」 突然の呟きに、雛森が首を傾げた。 「言わない方が、君のためだと思っているんだよ。 僕も、朽木君も。」 「別に、白哉の事を言っている訳では…!」 反論しようとして、藍染に微笑まれた。 が唇を尖らせる。 「………お前は反則だ。 その笑顔に毒気を抜かれる… 悩んでいる自分が馬鹿みたいだ…」 何故、日番谷が五番隊へ自分を連れて行ったのか。 その理由がわかった気がした。 藍染が首を竦める。 「一人で思い詰めていても、いい事なんてないよ。 皆でこうしてお茶をしている時間の方が、ずっと楽しくないかい?」 は、ゆっくり息を吐いた。 「………それもそうだな。」 羊羹をもう一つ、口へ運ぶ。 藍染がにこりと笑った。 「始めてだね。 君がこうして、何かを口にするのは。」 が少し目を丸くした。 「少しは、僕等の事を信用してくれたって事かな?」 が眉を寄せる。 「…一人、清ましているお前がムカつく。」 「あはは。 それはどうも。」 藍染が首を竦めた。 「雛森! 癪に障る奴だな、お前の上司は…」 が何か言いかけるが、雛森は小さく首を振った。 「ううん。 あたしは藍染隊長の事、凄く尊敬してるから。」 にこりと笑って、続ける。 「藍染隊長の下で働けて、すごく幸せだよ。」 そう言う笑顔はすごく満足そうで、は疲れたように溜息を吐いた。 「雛森くらい素直になれば、お前の抱えてる悩みの半分はすぐになくなるだろうな。」 「日番谷、何だ、お前まで…」 日番谷が湯飲みを口に付けた。 「…隊長クラスになると、食えねえ奴ばっかりだけど、藍染の奴は信用出来る。」 が言葉を飲み込む。 「こら! 日番谷くん! 藍染じゃなくて、藍染隊長でしょ!」 「お前もな、雛森。 日番谷隊長だ。」 雛森に反撃して、日番谷が小さく息を吐いた。 「…俺は…」 の方を見ずに、そのまま続けた。 「藍染みてえに、人の気持ちを落ち着かせるって言うか… 安心させてやる事は出来ねえ…」 お茶を啜った。 「気付いてるか?」 が首を傾げた。 「…眉間の皺も、ピリピリした空気も、もう消えてるぞ。」 日番谷の言葉に、一瞬、呼吸を忘れた。 「…ありがとう… 日番谷………」 一度、息を吐く。 「…ありがとう、藍染………」 藍染が首を竦めた。 「僕はそんな人間じゃないよ。」 そう言う声は落ち着いていて。 何故、雛森や日番谷が、藍染に対して気を許しているのか。 それがわかった気がした。 先ほどは、清ましていると言ったが。 そうではない。 藍染は、大人なのだ。 雨が。 ――――― 雨が、止んだ気がした。 |