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「あー、ちくしょう! どこ行ったんだよ!」

 斑目一角が辺りを見回した。

 更木に命じられ、弓親と共に二人を探す事、早半日。

「副隊長の霊圧は普段は微弱だから… やっぱり更木隊長でないと難しいな。」

 綾瀬川弓親が、手ぬぐいで汗を拭き、小さく溜息を吐く。

「あー、ちくしょう!」

 一角が叫んだ。

「早く出て来ねえと、副隊長の好物! 舟和の芋羊羹食っちまうぞ!!」

「僕は副隊長の雷はごめんだから、一応止めるよ。」

 二人は再び駆け出した。

「大体何で六番隊に行くって言って、そのまま行方不明になるんだよ! 方向音痴にも程があるだろ!!」

 大声で文句を言いながら、二人は三番隊舎前を通り過ぎた。

 そう、三番隊舎前を。





「さ、たーんとお食べ。」

 どこから掻き集めたのだろう、通された一室の机の上には、お菓子の山。

「イヅル、お茶。」

 副官の吉良イヅルが頷いた。

「わーいv いただきまーすv」

 やちるが嬉しそうに、お菓子の山に手を伸ばす。

ちゃんは? 食べへんのん?」

 首を傾げる市丸に、小さく息を吐いた。

「…何故止めた?」

「心外やなぁ。 止めて欲しかったんやろ?」

 市丸の声に、が眉を寄せた。

「二番隊長さんが言うてた事、詳しく聞かせてもろてええかな?」

 市丸はじっとを見据えた。

「"防人"・一族。 ボクも名前くらいなら聞いた事ある。」

 は眉を寄せた。

「尸魂界(ソウル・ソサエティ)を守る、王族直下の特務部隊… 百五十年程前に滅んだ言う話はホンマなん?」

 市丸がすっと、腰に刺したままの斬魄刀を指差す。

「その斬魄刀… 何で"封印"されてるん?」

 市丸は続ける。

「防人って、何を守ってるんや?」

 は息を吐いた。

「…一度にそんなに聞かれても困る。」

 と、首を竦める。

「私は少々気が短くてな。 止めてくれた事には例を言おう。 山本に怒られるところだった。」

 じっと市丸を見据える。

「よく知っているな、感心するよ。 だが…」

 腰に刺した斬魄刀の鞘を、ぎゅっと握った。

「私は誰にも、何も言う気はない。」

 市丸はぽりぽりと頬をかいた。

「可愛らしい子が秘密を持つのはあかん。 聞き出したくなるやないか。」

 溜息を吐く。

「どうぞ、お茶です。」

 吉良がお茶を運んで来た。

「さ、食べ。 やちるちゃんに全部食べられてまうで。」

 窓から外を見ると、空が薄暗くなり始めていた。

ちゃんは、どこに帰るん?」

 その声には答えず、は立ち上がった。

「帰ろう、やちる。 更木も心配しているだろう。」

 と、市丸がの細い腕を取った。

「つれないなぁ、ちゃん。 ボクの家においで言うとるんや。」

バン。

 と、すごい分厚いもので、思い切り殴るようなそんな音が聞こえた。

「ら、乱菊〜… 何や、痛いやないか。」

 力一杯叩かれた頭部を押さえながら、市丸が恨めしげに振り返った。

 やたらスタイルの良い、お姉さん。

 十番隊副隊長が、分厚い書類を片手に、眉を寄せていた。

「あんたねえ、その手の早さ、いい加減どうにかしたらどうなの?」

「ボクの性分や。 どうにもならん。」

 開き直る市丸をもう一度叩いて、分厚い書類を渡す。

「それ、間違いで十番隊(うち)に来てた書類。 三番隊のだから、今日中によろしく。 って、いつまで触ってんのよ!」

 の手を掴んでいた市丸の手を、叩き落とす。

…でいいのかしら?」

 松本がを見てそう言った。

「ギンなんて放っておいて、こっちいらっしゃい。 やちるも!」

 松本乱菊。

 分厚い書類を持って現れたかと思いきや、市丸を一喝。

 とやちるまで連れて、自分の隊舎へ戻って行った。

「…すごい。 僕もいつかああならないと。」

「ならんでええよ、イヅル。」

 市丸をこうしてあしらえるのは、広い瀞霊廷内でも松本乱菊、その人だけだった。


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