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「副隊長は副官章を付けて、二番側寝室へ待機せよ。 か…」

 恋次がその場に向った時、その場には五番隊副隊長の雛森が膝を抱えて座っていた。

「雛森。 何だよ、まだオマエだけか?」

「うん… そうみたい。」

「隊長・副隊長なんてのは、尸魂界中にちらばって忙しくしてるような連中ばっかだからねェ。」

 その場に辿り着いた松本乱菊が髪をかき上げた。

「全員集まるには半日くらいかかるんじゃない?」

 と、小さく息を吐く。

「…阿散井君…」

「あ?」

 雛森の声に、恋次が視線を落とした。

「うちの藍染隊長… …見てない?」

 雛森が首を傾げた。

「いや… 見てねえ。」

「そう…」

 雛森が、わずかに目を伏せた。

「…最近… 様子がおかしいの… でも、聞いても何も答えてくれなくて… あたし、どうしたら…」

「…心配すんな。」

 雛森の泣きそうな声に、恋次が息を吐いた。

「何もねえよ。 この召集だって、すぐ解かれるに決まってるさ。」

(くそ…ッ。)

 恋次は舌打ちをした。

(何なんだ!? 一体、何が起きてるってんだよ!? 藍染隊長!!)





「…来たか。 さあ! 今回の行動についての弁明を貰おうか!」

 ドアが開いた。

「三番隊隊長、市丸ギン!!!」

「何ですの? イキナリ呼び出された思うたら、こない大袈裟な…」

 市丸が不思議そうに首を傾げた。

「尸魂界を取り仕切る隊長さん方が、ボクなんかの為にそろいもそろってまァ… でもないか。」

 一回り見回して、市丸が続けた。

「十三番隊長さんがいらっしゃいませんなァ。 どないされはったんですか。」

「彼は病欠だよ。」

 九番隊隊長 東仙要が答えた。

「またですか。 そらお大事に。」

「フザケてんなよ。 そんな話しに、ここに呼ばれたと思ってんのか?」

 更木だった。

「てめえ、一人で勝手に旅禍と遊んできたそうじゃねえか。」

 更木が、市丸を睨んだ。

「しかも、殺し損ねたってのはどういう訳だ? てめえほどの奴が、旅禍の4・5人 殺せねえ訳ねえだろう。」

「あら? 死んでへんかってんねや? アレ。」

「何!?」

 市丸の声に、更木が眉を寄せた。

「いやァ、てっきり死んだ思うててんけどなァ。 ボクの勘もニブったかな?」

(殺す気などなかったくせに。 よく言うよ。)

 総隊長の隣に立っていたが、首を竦めた。

 呆れ顔のを他所に、涅までも加えて、ちょっとした口論になっている。

「いややなあ。 まるでボクがわざと逃がしたみたいな言い方やんか。」

「そう言っているんだヨ。」

「うるせえぞ、涅! 今は俺がコイツと喋ってんだ! すッこんでろ! 俺に斬られてえなら話は別だがな!」

 不毛な言い争いに、小さく溜息を吐く。

 他の顔を見回せば。

「…下らぬ。」

(まったく、同感だ。)

 小さく吐き捨てた砕蜂に、頷く。

「やれやれ…」

 首を竦める京楽の隣で、朽木白哉は何も言わずに立っていた。

「ぺいっ!」

「!!」

 山本総隊長の突然の声に、それまで言い争っていた三人が言葉を飲み込む。

「やめんかい、みっともない! 更木も涅も下がらっしゃい!」

 ボリボリと、額を掻いた。

「…じゃがまあ… 今のでおぬしがここへ呼ばれた理由は概ね伝わったかの。」

 山本総隊長が続ける。

「今回のおぬしの命令なしの単独行動。 そして、標的を取り逃がすという、隊長としてあるまじき失態! それについておぬしからの説明を貰おうと思っての! その為の隊首会じゃ。」

チリっ

 わずかに空気が震えた。

「どうじゃい、何ぞ弁明でもあるかの。 市丸や。」

 市丸は細く笑った。

「ありません!」

「…何じゃと?」

「弁明なんてありませんよ。 ボクの凡ミス。 言い訳のしようもないですわ。」

 市丸がぽりぽりと頭を掻いた。

「さぁ、どんな罰でも…」

「山本!」

 突然の声に、13の視線が集まった。

「…私もその場にいた。 市丸を罰すると言うなら、私も同じ罰を受けよう。」

 だった。

 山本総隊長が、長い髯を撫でる。

「…おぬしと市丸は違う。 我々護廷十三隊に、おぬしを罰する事は出来ぬ。」

「そうか。 では…」

 が何か言いかけた時だった。

ガァン

「!!」

ガンガンガンガン

『緊急警報!! 緊急警報!! 瀞霊廷内に侵入者有り!! 各隊、守護配置について下さい!!』

「何だと!? 侵入者…!?」

 隊首会どころではなかった。

「まさか… 例の旅禍か!?」

ダンッ

 真っ先に更木が飛び出した。

「おいっ!? 待て剣八! まだ…」

 藍染がその背に声を投げるが、剣八は振り返りすらしなかった。

「…ふぅ。」

 が溜息を吐いた。

 この警報は、旅禍の仕業ではない。

 瀞霊廷内に何者かが侵入すれば、そのかすかな霊力の変化で、にはその場所も人数もわかる。

「さて…」

 ぽりぽりと頭を掻いた。

「私も行くかな。」

 張羅を翻した。

「待て、。」

 総隊長の声に、が足を止めた。

「おぬしが単独行動をする事は許さぬ。 中央よりの命令じゃ。」

 は鼻で笑った。

「私が従わねばならぬ理由はない。」

「オイ、…!」

 日番谷が声をかけるより先に、はその場から姿を消した。


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