6


「…致し方ないの…」

 総隊長が溜息を吐いた。

「隊首会はひとまず解散じゃ! 市丸の処置については追って通達する。 各隊、即時廷内守護配置についてくれい!」

 その一言で、各自持ち場へ向うべく散る。

「随分と、都合良く警鐘が鳴るものだな。」

 市丸とすれ違い際に、藍染が囁いた。

「…ようわかりませんな。 言わはってる意味が。」

「…それで通ると思ってるのか?」

 藍染が続けた。

「僕をあまり甘く見ないことだ。」

 市丸は何も言わなかった。

 その様子を見ていた日番谷が眉を寄せた。







「ルーキアっ♪」

 突然名を呼ばれて、ルキアは目を丸くした。

 懺罪宮の中。

 隊舎牢にいた時とは訳が違う。

 一体誰が訪ねて来たと言うのだろう。

 振り返って、ルキアはきょとんとした。

……… 義姉様…」

でいいよ。」

 がにこりと笑った。

「何か御用ですか…?」

「そう緊張するな。 お前に用がある訳ではない。」

「はぁ…」

 の声に、ルキアが首を傾げた。

 はルキアの目の前まで近寄って、にこりと笑った。

むにっ。

 ルキアの頬を、軽く摘む。

「な、何を…!」

 ルキアがその手を払った。

「よし! 合格!」

 は笑顔で続けた。

「元気を出せとまでは言わないが… 沈んだ気持ちのままずっといるのも、体によくない。」

 くしゃっと、ルキアの髪を撫でた。

「怒れるじゃないか。 それでいいんだよ。 緊張するなと言っただろう。」

 ルキアがわずかに目を伏せた。

「…… 私は…」

むにっ。

 何か言いかけたルキアの頬を、再び摘む。

「お前は考えすぎだ。 難しい事ばかり考えて、ハゲても知らんぞ。」

「だ、誰がハゲるか、この…!」

 自分の手を払って掴みかかって来るルキアを、そっと、優しく抱き締めた。

「食事もろくに口にしないで… ちゃんと睡眠だってとっていないのだろう。 倒れても知らんぞ。」

 ルキアが唇を噛んだ。

「私は………!」

 その口元に、人差し指を添える。

 まるで何も言うなとでも言うように、にこりと微笑んだ。

「ルキア! 一緒に寝よう!」

 の突然の申し出に、ルキアが目を丸くした。

「はぁあ?」

 思い切り、間抜けな声を上げる。

「いや、実は明け方まで眠る場所が欲しかっただけなんだ。 ここなら誰も来ないだろう。」

 はそう言いながら、ルキアを引き摺って壁際まで歩いた。

 壁に背を預けるように座って、零と書かれた張羅を二人の体に掛けた。

 何を言っても無駄だと悟ったのか、ルキアは大人しく従っている。

「眠れる時にしっかり眠っておけ。 これから、忙しくなるぞ…」

「え?」

 ルキアが何か訊ね様としたが、は既に小さく寝息を立てていた。

 小さく、溜息を吐いた。

 頬をつねられた事など、優しく抱き締められた事など初めてだった。

 昔、貴族平民の区別なく、気さくに接してくれた上司がいた事を思い出した。


back