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(さて。)

 の視線の先には、十一番隊の斑目一角と綾瀬川弓親。

 その二人が、二人の侵入者と対峙していた。

「ついついっ♪ つつつい♪ つつつい♪ ついっ♪」

 一角が爪先で軽やかに踊っている。

(何をやっているんだ…?)

 が不審そうに眉を寄せた。

「てるーん!!!」

ビシィン

ズザー。

 建物の影から突然現れた第三者に、一角達も一護達も目を丸くした。

「! アンタは…!」

!? 何でこんな所に…」

 一護と斑目が、ほとんど同時に叫んだ。

「アイタタタ…」

 思い切り擦り剥いたのか、はうっすら涙を浮かべて鼻を擦っている。

(しばらく見物していようと思ってたのに…)

 一角の意外な一面を見てしまい、ズッコケずにはいられなかった。

「ちっ…」

 一角が舌打ちをする。

「邪魔すんなよ?」

「…ああ、わかっているよ。」

 突然現れたに、人数でも不利だと判断したのだろう。

 岩鷲が一目散に駆け出した。

「手間かけさせんなよ… 弓親!」

「わかっている。」

 一角の声に、弓親が駆け出した。

 一護が砂場から這い出るや否や、戦闘が始まった。

 は塀の上に座って、大人しく観戦していた。

(…ふむ。 強くなったな。)

 一角と同格の一護の体捌きに、感心する。

「十一番隊第三席副官補佐、斑目一角だ! 一の字同士、仲良くやろうぜ!」

「やだね!」

 その様子を見て、が細く息を吐く。

(流石は十一番隊と言うべきか… 楽しそうだな、斑目…)

 一角は柄の部分から血止めを取り出し、額の傷に塗った。

 一護が激しく抗議する。

(コラコラ… どこの子供だ…)

 は少し呆れたように息を吐いた。

「…へっ。 つくづく妙なヤローだ… 振る舞いはまるで素人。 とてもじゃないが、戦士にゃ見えねえ。」

 一角が続ける。

「だが、反応は上等! 打込みは激烈! 体捌きに至っては、この俺に近いと言ってやってもいい!」

「あ?」

 一護が眉を寄せた。

「そう怖い顔するなよ。 褒めてんだぜ。」

 一角が、真っ直ぐに一護を睨み据えた。

「師は誰だ、一護。」

 一護が言葉に詰まった。

「十日ほど教わっただけだから… 師と呼べるかどうかはわかんねえけど… 戦いを教えてくれた人ならいる。」

「誰だ?」

(誰だ… 夜一か…?)

 白道門で見た黒猫を思い出した。

 も、一角も、一護の言葉を待った。

「浦原喜助。」

 の呼吸が止まった。

浦原喜助。 ―――――

 一角の顔色が変わった。

「…そうか… あの人が師か… それじゃ…」

 一角の霊圧がわずかに上がった。

「手ェ抜いて殺すのは失礼ってもんだ。」

 斬魄刀の柄と鞘を合わせる。

「延びろ!! 鬼灯丸!!!」

 一角の声に反応するように、斬魄刀がその姿を変える。

(槍!!)

 一護が目を丸くする。

「驚いてるヒマぁ無えぞ一護!! いくぜ!! 見誤んなよ!!」

 一角が地を蹴った。

「誰が!!」

 最初の一撃は止めた。

 一角が休まずに攻撃を繰り出す。

 一護は間一髪でそれらを交わしていた。

「へ! 槍の間合いが長いってことくらいわかってるぜ! 誰が見誤るかよ!」

「違うぜ。」

「何?」

 一角が槍を振り下ろした。

 斬月で、それを受ける。

「裂けろ、鬼灯丸!!!」

 その声に反応するように、槍が裂けた。

「!」

 咄嗟の攻撃に、一護が息を飲む。

 庇った右腕が裂けた。

 血が噴き出す。

「見誤るなってのはこういうことさ。 鬼灯丸は「槍」じゃねえよ。 「三節棍」なんだよ。」

「痛えか。 …その手じゃ もうロクに剣も握れねえだろ。」

 一護の右腕から、ボタボタと血が滴り落ちる。

 が眉を寄せた。

「俺は心優しい男だ。 普段ならここで生かして捕らえるところだが…」

 一護が妙な行動に出た。

 斬月の柄に撒かれた布を、己の右腕にぐるぐる巻き付けている。

「悪いな。 てめーは殺さねえと手柄にならんらしい。」

ギューッ

 思い切り縛った。

「よし!」

「あァ? 何して…」

 一角が不審そうに眉を寄せた。

ドッ

 斬りかかる。

 塀が真っ二つに割れた。

 が目を丸くする。

「…な…」

 間一髪で避けた一角が目を見張った。

!!!」

 ありったけの声で叫ぶ。

(…こいつは、まだ化けるな。)

 が細く笑った。

「オイ! 大丈夫か!? 怪我はねえか!? 何とか言いやがれ!!」

 大声で叫ぶ一角に、ひらひらと手を振る。

「大丈夫だ、斑目。 イチゴは、ちゃんと外してくれたぞ〜。」

 一隣の塀が真っ二つにされたと言うのに、は平然としている。

「おいこらテメエ!」

 一護がを指差した。

「イチゴじゃねえ! チゴだ! 一護! 一等賞の"一"に、守護神の"護"だ! んな可愛い名前じゃねえよ!!」

「一護、てめえ! に何て口を利きやがる! いい度胸してんじゃねえか!!」

 一角がビシィッと一護を指差す。

 一角の声で、一護が視線を戻した。

「…今度は、あんたが剣を握れなくなる番だ。」

「…上等な口をきくじゃねえか。 …餓鬼が。」


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