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 目を開けた。

 そこには空が広がっている。

「…何で俺は生きてんだ?」

 その耳に、話し声が聞こえた。

 一角が視線だけをそちらへ投げる。

「なっ!?」

 一護とが仲良く座っていた。

 何かしゃべっているみたいだが、その内容まではわからない。

「! 俺の鬼灯丸…! てめぇ…返っ…」

 一護が一角に視線を移す。

「起きたか。 別に盗りゃしねーよ。 ここの血止めの薬を、ちょっと借りただけだ。」

 そう言って一護が鞘の部分を見せる。

「まあ、俺とあんたに使ったら、全部なくなっちまったけどな。」

「!!」

 一角が自分の胸元を見た。

 血止めで、止血されている。

「くそっ…! おかしいと思ったんだ!! あの出血で死んでねえなんて!!」

 弾けたようにを見やる。

! 何で止めなかったんだよ!?」

「最初に手を出すなと言ったのはお前だ。」

 さらりとそう言われて、言葉を飲み込む。

「助けられて永らえるとはとんだ恥さらしさぜ…! くそ… 体さえ動きゃ、てめえを叩っ殺してるところだ…!!」

 一角が苦々しく呟いた。

「ちぇっ。 なんだそりゃ。 そんなこと言われんなら、助けなきゃよかったぜ。」

 一護が眉を寄せる。

「じゃ、色々教えてくれてありがとな。 俺、行くぜ?」

「気を付けろよ。 では、またな。」

 にこりと笑って見送るに、一護がぽりぽりと頬を掻いた。

「…ちょっと待て。」

 一角の声に、足を止める。

「オマエらの仲間で…一番強えのは誰だ?」

 突然の問い。

 一護がわずかに首を傾げた。

「多分、俺だ。」

「…そうか。」

 一角が眉を寄せる。

「…だったらうちの隊長に気をつけな。 てめーの言うことが本当なら、狙われるのは間違いなくてめぇだ。」

「…強いのか?」

 一護が訊ねた。

「会えばわかるさ。 まあ、あの人の強さをてめーの頭が理解できるまで、てめーが生きていられればの話だがな。」

 一護が言葉を飲み込む。

「…そいつの名前は?」

 一角が笑った。

「…更木 剣八………」

 風が吹いた。

「…じゃ、行くぜ。」

 と一角に背を向けて、一護が駆け出した。

 の漆黒の髪が、風に揺れる。

「さて。」

 が一角に視線を落とした。

「本当は四番隊に運んでやりたいところだが… 悪いな、行くぞ?」

「ああ…」

チリーン

「…。」

 歩き出そうとした少女を呼び止める。

「心配かけたな…」

「ああ。 まったくだ。」

 が何か言いたそうに眉を寄せる。

「…手ェ、出さないでくれてありがとよ。」

「ああ。」

「それと…」

 一角は一度、言葉を切った。

「…無茶すんなよ?」

 優しいその声に、目をぱちくりさせる。

「ああ。」

 にこりと笑った。

チリーン

 小さな鈴の音を残して、少女の姿が消えた。


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