12


 じぃっと少年を見据えて、一護が斬月を握る。

「こ… ここから逃げる… って? あの…」

 気の弱そうな少年は、少し怯えたように一護達を見上げていた。

「も… もしかして、あなた達が例の旅禍…… …じゃ… ないです… よねっ!?」

 突然、体を持ち上げられた。

「おらァ!! てめーら道あけろォ!!」

「てめーらの仲間、ブッ殺されたくなかったらなァ!!」

 死覇装を思い切り捕まれ、首元に斬月を突きつけられ。

「ギャーーーーッ!!!」

 少年が悲鳴を上げる。

しーん

 敵が目を丸くした。

「何… やってんだ、てめえら?」

 その言葉に、思わず目を丸くする。

「え…」

「何って? …人質?」

 少年に命の危機が迫っているのに、何故こうも冷静なのだろう。

 逆に聞き返してしまった。

「俺らとそいつが仲間に見えるか?」

 敵の声。

「…違うのか?」

 思わず人質の少年に訊ねてしまった。

「ぼ… ぼくは四番隊。 あの人達は十一番隊です…」

 少年の声に、敵が続く。

「俺ら十一番隊は護廷十三隊最強の戦闘部隊。 ひきかえ四番隊は弱すぎて救護しかできねえ、十三隊最弱のお荷物部隊…」

「ゆえに俺ら十一番隊は四番隊が…」

「大っキライでーっす!!!」

「殺したきゃ殺せや!! ぶっちゃけ一石二鳥だ、コラァ!! ギャハハハハハハハハ!!!」

 腹を抱えて大笑いをしている。

「いやーーー!!!」

 少年が叫んだ。

「ちょちょちょ、ちょっと待てえ!! キライだから死んでもいいなんて、ヒドすぎるじゃないかキミ達ィ!!」

「おー。 マトモな反論だ。」

 岩鷲の声に、一護が感心したように呟いた。

「こら。 汚い野次を飛ばすな、バカ者。」

 突然の声。

 敵が振り返った。

 一護達も、そちらへ視線を向ける。

さん!」

 だった。

「チューッス! さん!」

さん! お疲れさまです!」

「今日もキレイっす、さん!」

 ガラの悪い男達が、一斉にに頭を下げている。

 異様な光景だった。

 が小さく息を吐く。

「道を開けてくれ。」

 少年を人質に捕った一護達の前へ、歩み出る。

「な、んだよ… やんのか…?」

 一護が眉を寄せた。

「その子供を放せ。 人質を所望なら、私が代わろう。」

「あ?」

 の突然の申し出。

 一護と岩鷲が顔を見合わせて眉を寄せた。

「な、何言ってんすか、さん!!」

「んな必要ねえ!」

「殺しときゃいいじゃねえですか、そんなガキ!!」

 十一番隊の隊士達が、文句を揃える。

「あ、あんまりだ…」

「お前って可哀想だな…」

 涙目になった少年に、岩鷲が哀れみの目を向ける。

「卯ノ花のトコロの者だ。 悪いが、見捨てておけない。」

 が一護を見上げる。

「さ。 その子供を放せ。」

 岩鷲がしげしげとを見回した。

 普通の、小柄な少女である。

 斬魄刀は腰に差してはいるが、それは布や鎖で巻き付けられており、抜刀出来ないだろうと予想できた。

「…ま、俺も… どーせ同じ人質なら、カワイ子ちゃんの方がいいけどよ… どーすんだ?」

 ちらっと一護を見た。

 じぃっ。

 一護がを見据える。

 揺らぐ事ない、真っ直ぐな黒曜石の瞳。

「…わかった。 コイツは放し… ―――」

ドォン

 突然、大爆発が起こった。

「……………!?」

「な… 何だ何だ一体!?」

 岩鷲が目を丸くする。

「…何だか知らねえけど、とりあえず…」

 一護が斬魄刀を掲げた。

「敵が半分になって、チャンスってことだけは確かだぜ!!」

 半分に減った敵中に、飛び込…。 ―――

チリーン

「!?」

 一護は目を丸くした。

 一護より先に飛び出したのだろうか。

 がそこに立っていた。

 少女の周りでは、敵が気を失っている。

「…あんた… 何を………」

 驚く一護に、にこりと笑う。

「こっちだ。 行くぞ!」

 が駆け出す。

「あ、おい…! 待てよ…!」

 一護が小さく舌打ちをした。

「行くぞ、岩鷲!」

「お、おう!」

 の後を追う。







 人気のない倉庫。

「山田花太郎です。」

「「逆におぼえにくい!」」

 一護と岩鷲の声が揃った。

「ええッ!? み… みんな"憶えやすくていい名だ"って言ってくれますよ!?」

 花太郎が抗議する。

「そうか? 『山田太郎』とか『山田花子』ならわかるけど、『花太郎』って! おぼえにくい、おぼえにくい。」

 一護が眉を寄せた。

「つーかオマエ俺らの敵だろ? なんで自己紹介とかしてんだよ?」

 岩鷲の声に、花太郎が目をぱちくりさせた。

「…そういえば、そうですよね…」

「なんでこんな奴連れてきちゃったんだよ!?」

 一護が思い切り眉を寄せて、岩鷲に抗議する。

「しょーがねえだろ! 近くにいたから、ついうっかり連れて来ちまったんだよ!!」

「いや。 役に立つかも知れない。 連れていて損はないと思うぞ。」

 自分に続いた声に、岩鷲が振り返った。

「つーか、オマエは何だ?」

 不審そうにを見据えた。

「私か? 私はだ。 よろしく。」

 にこりと笑う。

「お、おう。 俺は志波岩鷲だ。 よろし… って、そうじゃねえ!」

 びしっと、を指差した。

「一護! 何だよ、コイツは!!」

「何って言われてもなぁ…」

 一護が困ったように頭を掻く。

「俺も名前以外知らねーんだよ。」

 一護の声に、益々不審そうにを見回した。

「なんでガラの悪い連中が、お前に挨拶してたんだよ? 何者だ、てめぇ?」

 は少し困ったように、ぽりぽりと頭を掻いた。

。 今の役職は… 護廷十三隊・零番隊… 隊長、だ…」

 岩鷲の目が点になった。

「た、隊長…? てめえが、か?」

「指で指すな、バカ者。 失礼だぞ。」

 が少し眉を寄せた。

 一護も、目を丸くしてその話を聞いていた。

「あんた隊長だったのか?」

「ん、まだ半月程しか経っていないがな。」

 が頷く。

 夜一が、隊長格に会ったら迷わず逃げろと言っていた事を思い出した。

 しかし、一護には、が危険な人物には見えない。

「…なんで、俺を助けてくれるんだ?」

 現世で、そして市丸と対峙した時も、は一護を助けてくれた。

「お前が、ルキアを助けようとしているからだ。 しばらくは、お前達と行動を共にする。 構わないな?」

「は、反対!! 絶対反対だ!! いくらカワイ子ちゃんの頼みだとしても、隊長なんて一緒に連れられるか! 殺されるぞ!」

 岩鷲が激しく訴える。

 が一護をじっと見上げた。

「ああ… 構わねーけど…」

 の瞳は、敵意を感じない。

 岩鷲は危険だと言うが、一護にはそう言う風には見えなかった。

「ルキアって… 朽木ルキアさんですか?」

 一護が目を丸くして振り返った。

 と一護の会話を遮ったのは、花太郎だった。

「助けようとしてるって… じゃあ、懺罪宮に向ってるって事ですよね…」

 少しだけ悩んで、花太郎が口を利いた。

「…ぼく… …知ってますよ。 その塔への抜け道。」


back