4


「はっ… はっ…」

 息を繋ぐのもやっとなのだろう。

 一護の胸倉を掴んでいた指先から、力が抜ける。

 恋次の体がその場に崩れた。

「阿散井…!」

 が飛び出す。

 それと同時に、一護の体が崩れた。

「一護!!!」

 岩鷲と花太郎が駆けた。

「おいっ! 大丈夫か、一護!? 返事しろ、オイッ!!」

「バカ者! 激しく揺さぶるな! この出血が見えぬか!」

 の一喝が飛ぶ。

「…阿散井副隊長…」

 花太郎が息を飲んだ。

(副隊長を… 倒してしまった。 一護さん… あなたは本当に何者…)

「!」

 が顔を上げた。

「行け! 人が来る! 4人だ!」

「今、大勢来られたら厄介だ!! 人の来ない所に案内してくれ!!」

 岩鷲が一護を抱える。

「あ、はい…!」

 駆け出そうとして、花太郎が足を止めた。

「あの… さんは…?」

 は首を振った。

「私はここまでだ。 イチゴは任せたぞ。」

 花太郎に、力強く頷く。

「…はい…!」

 花太郎たちが去ってすぐだった。

「!」

 吉良が息を飲む。

さん! あ、阿散井さん!!」

「大丈夫スか、阿散井副隊長!!」

 隊士が二人の下へ駆け寄った。

 吉良が、視線を投げた。

「…何者か逃げたようですね… 追いますか?」

 それに気付いた隊士が声をかけた。

「吉良! 今は阿散井を優先しろ!!」

 が声を投げる。

「…さんの言う通り。 今は阿散井くんの救助を優先させるのが賢明だ。」

 吉良が二人の方へ歩み寄った。

「!」

 の手首に、赤く擦れた痕。

(縛られていたのか…)

 吉良がわずかに眉を寄せた。

さん、怪我は…」

ヌル

「!」

 の肩を叩いた吉良の手に、生ぬるい感触。

さん!!」

 吉良の手には、赤黒い血がべっとりと付着していた。

「…大丈夫だ。」

 それはの血ではない。

 一角戦後、一護の足元が覚束なく、傾いたその体を支えた。

 その時に付着した、一護の血だろう。

(………)

 が小さく息を吐いた。

 一護は、花太郎がいれば大丈夫だろう。

 問題は。

 ちらっと、視線を落とす。

(問題は、コイツか…)

 頭の固い彼の上司が何と言うか、想像できた。







「…そんな…!」

 雛森が息を飲んだ。

「…僕が見つけた時には、もうこの状態だったんだ… もう少し早く見つけて、僕が戦いに加勢していれば…」

 運ばれた恋次。

 雛森の目に、うっすらと涙が浮かんだ。

「ううん… そんなの、吉良くんのせいじゃ…」

「…ともかく、四番隊に連絡するよ。 上級救助班を出して貰おう…」

「その必要は無い。」

 突然の声。

「牢に入れておけ。」

「朽木隊長…!」

 二人が息を飲んだ。

「そ… そんな… 阿散井くんは一人で旅禍と戦ったんです… それなのに…」

「言い訳など聞かぬ。」

 雛森の声を、遮る。

「一人で戦いに臨むということは、決して敗北を許されぬということだ。」

 白哉の声は冷たい。

「それすら解らぬ愚か者に用など無い。 目障りだ、早く連れていけ。」

 雛森がグッと拳を握った。

「…ちょ… ちょっと待ってください!! そんな言い方って…」

「よせ!」

 吉良が雛森の肩に手を添える。

「だって、吉良くん…!」

「吉良の言う通りだ。 やめろ、雛森。」

 第三者の声。

 それは、雛森と白哉の間に現れた。

「…ちゃん…!」

 雛森が目を丸くする。

「ケガしてない? 大丈夫?」

「大丈夫だ。」

 は、蝶の模様が描かれた黒衣の小紋に着替えていた。

「全く、想像した通りだな。 相変わらず、頭が固い。」

 わずかに目を細めて、白哉を睨んだ。

「心配するな、雛森。 阿散井は私が看る。」

 白哉が眉を寄せた。

「…。 勝手な行動は許さぬ…」

「…阿散井が生きていた事に安心したのだろう?」

 白哉の声を、が遮った。

「この怪我で生きているのならば、死には至らない。 …部下の顔を見たら安心したか? 白哉…」

 が続ける。

「…いくら手当てされると知っているとはいえ… 労いの言葉は、もっと優しい物を選んでやるんだな。」

「…どういう意味だ?」

 白哉が眉を寄せた。

「言葉の通りだ。 もっと素直に喜んではどうだ?」

 少女の黒曜石の瞳が、じぃっと白哉を見上げる。

「………」

 白哉はそれ以上何も言わずに去って行った。

「おー、こわ!」

「!」

 突然の声。

 雛森が少し怯えたように視線を向けた。

「市丸隊長!」

 吉良が嬉しそうに言った。

「こら、市丸! 気配を消して現れるな、バカ者。 驚くだろう。」

 が小さく頬を膨らませた。

「ははっ。 そら、すんませんなぁ。」

 を見て笑った。

「四番隊、ボクが声かけて来たろうか?」

「いや、今は大丈夫だ。」

 が首を振る。

「そか。 じゃ、任せるわ。 おいで、イヅル。」

 市丸は吉良を連れて出て行った。

「おわー! こりゃ、ハデにやられやがったな、阿散井のヤロー!」

「ふわあっ!?」

 何度目かわからない突然の声に、雛森がびくぅっと体を震わせた。

「ひ…日番谷くん!!」

 驚く雛森に首を竦め、日番谷が振り返る。

「よ。」

 細く笑った。

「人質になってたって聞いたけど、大丈夫だろ?」

「ああ。」

 ふと、その手首を見ると、赤く擦れた痕がある。

「…縛られてたのか? 大人しく縛られてやったのか?」

 少し呆れたように、日番谷が息を吐いた。

「で、何で着替えてんだ?」

「…死覇装が汚れてしまったんだ。 血でベトベトに…」

 日番谷がわずかに眉を寄せる。

「…返り血、じゃねえな?」

 確信はないが、きっとは戦っていないだろうと予想できた。

「みたいなものだ。」

 が首を竦める。

 日番谷が眉を寄せた。

「…強いのか?」

 は言葉を飲み込んだ。

『だから俺が助けるんじゃねえかよ!!!』

 わずかに、目を伏せる。

「……………強い。」

 腕や力よりも。

 何よりも、意志が強い。

「…そうか。」

 日番谷が雛森に視線を移す。

「雛森… 一つ、忠告だ。」

「?」

 雛森が首を傾げる。

「三番隊には気をつけな。」

「え…? 三番隊…? なんで?」

 訳がわからず、雛森が目をぱちくりさせる。

「取り敢えず気をつけといて損はないぜ。 特に………」


back