「はっ… はっ…」 息を繋ぐのもやっとなのだろう。 一護の胸倉を掴んでいた指先から、力が抜ける。 恋次の体がその場に崩れた。 「阿散井…!」 が飛び出す。 それと同時に、一護の体が崩れた。 「一護!!!」 岩鷲と花太郎が駆けた。 「おいっ! 大丈夫か、一護!? 返事しろ、オイッ!!」 「バカ者! 激しく揺さぶるな! この出血が見えぬか!」 の一喝が飛ぶ。 「…阿散井副隊長…」 花太郎が息を飲んだ。 (副隊長を… 倒してしまった。 一護さん… あなたは本当に何者…) 「!」 が顔を上げた。 「行け! 人が来る! 4人だ!」 「今、大勢来られたら厄介だ!! 人の来ない所に案内してくれ!!」 岩鷲が一護を抱える。 「あ、はい…!」 駆け出そうとして、花太郎が足を止めた。 「あの… さんは…?」 は首を振った。 「私はここまでだ。 イチゴは任せたぞ。」 花太郎に、力強く頷く。 「…はい…!」 花太郎たちが去ってすぐだった。 「!」 吉良が息を飲む。 「さん! あ、阿散井さん!!」 「大丈夫スか、阿散井副隊長!!」 隊士が二人の下へ駆け寄った。 吉良が、視線を投げた。 「…何者か逃げたようですね… 追いますか?」 それに気付いた隊士が声をかけた。 「吉良! 今は阿散井を優先しろ!!」 が声を投げる。 「…さんの言う通り。 今は阿散井くんの救助を優先させるのが賢明だ。」 吉良が二人の方へ歩み寄った。 「!」 の手首に、赤く擦れた痕。 (縛られていたのか…) 吉良がわずかに眉を寄せた。 「さん、怪我は…」 ヌル 「!」 の肩を叩いた吉良の手に、生ぬるい感触。 「さん!!」 吉良の手には、赤黒い血がべっとりと付着していた。 「…大丈夫だ。」 それはの血ではない。 一角戦後、一護の足元が覚束なく、傾いたその体を支えた。 その時に付着した、一護の血だろう。 (………) が小さく息を吐いた。 一護は、花太郎がいれば大丈夫だろう。 問題は。 ちらっと、視線を落とす。 (問題は、コイツか…) 頭の固い彼の上司が何と言うか、想像できた。 「…そんな…!」 雛森が息を飲んだ。 「…僕が見つけた時には、もうこの状態だったんだ… もう少し早く見つけて、僕が戦いに加勢していれば…」 運ばれた恋次。 雛森の目に、うっすらと涙が浮かんだ。 「ううん… そんなの、吉良くんのせいじゃ…」 「…ともかく、四番隊に連絡するよ。 上級救助班を出して貰おう…」 「その必要は無い。」 突然の声。 「牢に入れておけ。」 「朽木隊長…!」 二人が息を飲んだ。 「そ… そんな… 阿散井くんは一人で旅禍と戦ったんです… それなのに…」 「言い訳など聞かぬ。」 雛森の声を、遮る。 「一人で戦いに臨むということは、決して敗北を許されぬということだ。」 白哉の声は冷たい。 「それすら解らぬ愚か者に用など無い。 目障りだ、早く連れていけ。」 雛森がグッと拳を握った。 「…ちょ… ちょっと待ってください!! そんな言い方って…」 「よせ!」 吉良が雛森の肩に手を添える。 「だって、吉良くん…!」 「吉良の言う通りだ。 やめろ、雛森。」 第三者の声。 それは、雛森と白哉の間に現れた。 「…ちゃん…!」 雛森が目を丸くする。 「ケガしてない? 大丈夫?」 「大丈夫だ。」 は、蝶の模様が描かれた黒衣の小紋に着替えていた。 「全く、想像した通りだな。 相変わらず、頭が固い。」 わずかに目を細めて、白哉を睨んだ。 「心配するな、雛森。 阿散井は私が看る。」 白哉が眉を寄せた。 「…。 勝手な行動は許さぬ…」 「…阿散井が生きていた事に安心したのだろう?」 白哉の声を、が遮った。 「この怪我で生きているのならば、死には至らない。 …部下の顔を見たら安心したか? 白哉…」 が続ける。 「…いくら手当てされると知っているとはいえ… 労いの言葉は、もっと優しい物を選んでやるんだな。」 「…どういう意味だ?」 白哉が眉を寄せた。 「言葉の通りだ。 もっと素直に喜んではどうだ?」 少女の黒曜石の瞳が、じぃっと白哉を見上げる。 「………」 白哉はそれ以上何も言わずに去って行った。 「おー、こわ!」 「!」 突然の声。 雛森が少し怯えたように視線を向けた。 「市丸隊長!」 吉良が嬉しそうに言った。 「こら、市丸! 気配を消して現れるな、バカ者。 驚くだろう。」 が小さく頬を膨らませた。 「ははっ。 そら、すんませんなぁ。」 を見て笑った。 「四番隊、ボクが声かけて来たろうか?」 「いや、今は大丈夫だ。」 が首を振る。 「そか。 じゃ、任せるわ。 おいで、イヅル。」 市丸は吉良を連れて出て行った。 「おわー! こりゃ、ハデにやられやがったな、阿散井のヤロー!」 「ふわあっ!?」 何度目かわからない突然の声に、雛森がびくぅっと体を震わせた。 「ひ…日番谷くん!!」 驚く雛森に首を竦め、日番谷が振り返る。 「よ。」 細く笑った。 「人質になってたって聞いたけど、大丈夫だろ?」 「ああ。」 ふと、その手首を見ると、赤く擦れた痕がある。 「…縛られてたのか? 大人しく縛られてやったのか?」 少し呆れたように、日番谷が息を吐いた。 「で、何で着替えてんだ?」 「…死覇装が汚れてしまったんだ。 血でベトベトに…」 日番谷がわずかに眉を寄せる。 「…返り血、じゃねえな?」 確信はないが、きっとは戦っていないだろうと予想できた。 「みたいなものだ。」 が首を竦める。 日番谷が眉を寄せた。 「…強いのか?」 は言葉を飲み込んだ。 『だから俺が助けるんじゃねえかよ!!!』 わずかに、目を伏せる。 「……………強い。」 腕や力よりも。 何よりも、意志が強い。 「…そうか。」 日番谷が雛森に視線を移す。 「雛森… 一つ、忠告だ。」 「?」 雛森が首を傾げる。 「三番隊には気をつけな。」 「え…? 三番隊…? なんで?」 訳がわからず、雛森が目をぱちくりさせる。 「取り敢えず気をつけといて損はないぜ。 特に………」 |