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ふぅ。

 が息を吐いた。

 恋次を看ると、その言葉を実行して来た。

 目が覚めれば、すぐに、動けるようになるだろう。

(あとは、四番隊に任せるか…)

 前にも言ったが、治癒は得意ではない。

 現に、今だっていつ倒れてもおかしくないだろう。

ふらぁ…

 傾いた少女の肩を、抱くように支えた。

 が驚いて目を丸くする。

「………藍染…」

「や。」

 藍染だった。

「大丈夫かい? 真っ青な顔をして… 無理はよくないよ。」

 藍染が困ったように首を竦めた。

「…副官も連れず、何故こんな所に…?」

 が眉を寄せた。

「いや、隊舎に戻る途中だよ。 緊急隊首会があったんだ。」

 藍染の声に、益々眉を寄せた。

「…今度は何だ?」

 藍染が首を竦める。

「副官以上の斬魄刀の常時帯刀許可、及び… その戦時全面解放の許可…」

 が目を丸くする。

 だが、副隊長の恋次がやられたのだ。

 それも当然だろう。

(イチゴ………)

「そうか… 放せ…」

 肩を抱いたままの藍染の手を払う。

 藍染がをじろじろ見回した。

「ん。 怪我がなくて何よりだよ。」

「私は… 大丈夫だ…」

 欄干に寄りかかった。

 その瞳は、何やら思い詰めている。

 時折吹く風に、漆黒の髪が揺れた。

「…くん。」

 突然名を呼ばれ、は振り返った。

「なんだ、藍染…?」

 首を傾げるににこりと笑って、両手を広げる。

「?」

 訳が分からない。

「抱き締めてもいいかい?」

…。

……………。

…………………………。

「はぁあ!?」

 突然の声に、思い切り間抜けな声を出してしまった。

「先に一言、断るのが礼儀だと思ってね。」

 藍染は相変わらずにこにこしている。

「…藍染、何の冗談…」

「僕は本気だよ。」

 溜息交じりのの声を、遮った。

 一歩、へ近付く。

「おい、藍染…」

 は訝しげに眉を寄せるが、藍染は徐々にとの距離を縮めた。

「ま、待て… いきなり何だ…?」

 逃げようにも、後ろは欄干。

 に逃げ場はない。

 戸惑うの声を聞き入れず、藍染はそれでもにこにこと笑っていた。

「止めろ、許さぬぞ…!」

 が藍染を睨んだ。

「無礼だ…! 藍染………!!」

―――

ドキ…ッ、ン

 優しく、包み込むように抱き締められた。

 何故だろう。

 人に抱き締められて、呼吸が出来なくなるなんて初めてだった。

 ドキドキと、激しく心臓が鼓動する。

 藍染に聞こえてしまうのではないかと言うほど、その音が自分の耳に大きく届いた。

「心から…」

 藍染の声が聞こえた。

「心から、誰かを信頼する事も…」

 藍染の声は優しく、心地よい。

「その誰かの側で、安息を求める事も… 決して罪ではない。」

ぎゅ…

 強く、裾を握った。

 胸が、苦しい。

「君には…」

「え…?」

 を抱く腕に、力を込めた。

「君には何もせずに… 大人しくしていて欲しい………」


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