「…何を、している?」 突然の声。 抱き締める少女の体が強張ったのがわかった。 「別に。 君の恋敵になろうって訳じゃないよ。」 さらっとそう言って、藍染が振り返った。 「…総隊長が呼んでいる。 来い。」 やっと、藍染から解放された。 短い時間だったはずなのに、とても長い時間そうされていた気がした。 白哉に連れられて、総隊長の下へ向かう。 「…何だと?」 チリッ 空気が震えた。 が眉を寄せる。 「おぬしは今後、全ての行動を朽木と共にせよ。 そう申したのじゃ。」 総隊長は、長い髯を撫でていた。 白哉は何も言わずに黙っている。 「…中央の命令か?」 確かに、に動き回れるのは、尸魂界側からすれば、都合が悪いかも知れない。 が唇を噛んだ。 「断る!! 中央如きが、防人に大層な口を利くな!! 無礼も大概にしろ!!」 声を荒げて、視界が揺らいだ。 そっと、白哉が少女を支える。 「。」 総隊長が息を吐いた。 「…確かに、中央の命令でもある。 じゃが、同時にワシの命令じゃ。 おぬしには、一つ借りがある事を忘れてはいまいな?」 白哉に決闘を申し込んだ際、総隊長はそれを許可した。 その事を言っているのだろう。 「活殺自在…」 生かすも殺すも思いのままに。 と言う意味である。 「おぬしのこれからの行動は、全て、朽木に一任する。 任せたぞ。」 「御意…」 は小さく震えていた。 帯刀許可及び戦事全面解放の許可。 一護達はこれから先、もっと苦労する事になるだろう。 それなのに。 手助けする事も許されない。 もっと、多くの血が流れるだろう。 チリチリ… 震える空気に、は目を開けた。 昨日、あれから。 白哉に抱えられるように、朽木邸に戻った。 そのまま倒れるように眠って… 震える空気に、起こされた。 (…だるい…) 体が鉛のように重い。 恋次の傷は、それ程深かった。 (何だ、姫椿… いや、月華か…?) 外に目を向ける。 明るい。 朝だ。 だが、出かけるにはまだ早い。 もう少し、眠っていられたのに。 「………どうした? 何かあるのか?」 部屋着に着替えて、縁側に立った。 (一、二、三… 四、五……… 六…) 細く笑う。 (侵入者は皆無事か…) 霊圧を辿って、侵入者の無事を確認した。 橙色の生地に、金糸で刺繍が施されている小紋。 小さく息を吐いた。 白哉は言葉はくれないくせに、こう言う高価な物を与えてくれる。 嬉しい気持ちより、淋しい気持ちの方が大きかった。 部屋の外に、人の気配を感じた。 「失礼致します、様。」 身の回りの世話をしてくれる、側女の声だ。 きっと、起こしに来たのだろう。 「今日はもう起きている。」 「まぁ、めずらしい。 悪い夢でも見られたのですか?」 おっとりした、気の利く娘だ。 「別にそう言う訳では…」 が息を飲んだ。 「!」 外に視線を投げる。 (血の匂い…?) 「様?」 側女が首を傾げた。 「…先に行く。 白哉に、そう伝えてくれ。」 草履を手に、庭へ飛び出した。 そのまま、高い塀を越える。 「さ…」 側女の声を。 「いやぁあああああ!!」 突然の悲鳴が遮った。 |