(雛森…!) 声のした方へ、血の匂いがする方へ飛ぶ。 「雛森! どうした、何が………!!」 ポタ。 が息を飲んだ。 瀞霊廷の、東大聖壁。 そこには。 ――― 「…あ… ああ… あ…」 雛森の声が震えている。 「…あ… 藍染隊長!!!!」 その声が、とても遠くに感じられた。 『…くん。』 『なんだ、藍染…?』 『抱き締めてもいいかい?』 『はぁあ!?』 ドキ…ッ、ン 人に抱き締められて、呼吸が出来なくなるなんて初めてだった。 耳を塞ぎたくなるほど、自分の心音が大きく聞こえたのに。 藍染は。 いつもと変わらず、笑っていた。 そう、笑っていたんだ。 ――― 東大聖壁、その一面に。 一振りの刀に胸を貫かれた、変わり果てた藍染の姿があった。 ド、クン… 突然、心臓が激しく脈打った。 同時に、激しい頭痛に襲われる。 (なんだ…!?) 小紋の胸元をぎゅっと強く握って、が眉を寄せた。 頭の中に、何やら映像が流れ込んでくる。 ズキィン… (これは… 藍染?) 激しい鼓動に合わせる様に、頭痛が少女を襲う。 (なんだ… 手紙…? ………雛森…?) 流れ込んでくる映像。 きっと、一度に流れ込んでくるそれに、頭がついて行かないのだろう。 (やめろ…!) 唇を噛んで、頭を抱えた。 (やめろと言っているんだ…!) 寝着姿の藍染と雛森… 昨夜の出来事だろうか? ドクン。 月夜に、藍染の隊長着が翻った。 誰か、その背をつけている。 藍染が振り返った。 月明かりの下、刃が煌き… 「やめろ、月華ぁ!!!」 突然の悲鳴に似た叫び。 皆が振り返ると同時に、その小さな体が糸が切れたように傾いた。 そっと。 その背を支える。 「何や、朝っぱらから騒々しいことやなァ。」 市丸だった。 気を失ったの体を、抱き上げる。 『気をつけな。』 雛森が振り返る。 その瞳は涙に濡れていた。 『三番隊には気をつけな。』 日番谷の声が、雛森の頭に響いた。 『特に…』 雛森が市丸を見据える。 『藍染の奴が一人で出歩く時にはな。』 「お前か!!!」 雛森は弾けたように飛び出した。 市丸に向かって、斬魄刀を抜く。 ガン 「!」 雛森が目を丸くする。 「吉良くん!! どうして…」 吉良がそれを阻んだ。 を抱きかかえている市丸が避けようともしなかったのは、きっとこうなる事を予想していたのだろう。 「僕は三番隊副隊長だ! どんな理由があろうと、隊長に剣を向けることは僕が赦さない!」 雛森が唇を噛んだ。 「お願い… どいてよ、吉良くん…」 「それはできない!」 吉良が言い放つ。 「どいてよ… どいて…」 その声は、頼りないほど震えていた。 「だめだ!」 それでも吉良は譲らない。 「どけって言うのがわからないの!!」 「だめだと言うのがわからないのか!!」 雛森が斬魄刀を構えた。 「弾け!! 飛梅!!!」 ボッ 「な…ッ」 吉良が息を飲んだ。 ドン 爆発した。 涙を湛えながら、雛森は次の攻撃に備える。 「こんな処で斬魄刀を… 浅薄!!」 イヅルが舌打ちをした。 「自分が何をしているかわかっているのか!! 公事と私事を混同するな! 雛森副隊長!!」 ボッ 雛森が第二撃を繰り出す。 それは、近くの壁を抉った。 「…そうか。 それなら仕方無い… 僕は君を…」 吉良が雛森を睨みすえた。 「敵として処理する!」 飛んだ。 「面を上げろ、侘助。」 雛森が応えるように斬魄刀を振った。 ガガン ドン 二人は驚いて目を丸くした。 本気で戦っていた二人を止めたのは。 「動くなよ、どっちも。」 日番谷だった。 「………日番谷く…」 雛森の声を、遮る。 「捕えろ。 二人共だ。」 その声に、松本と射場が雛森を、檜佐木が吉良を取り押さえる。 「総隊長への報告は俺がする! そいつらは拘置だ! 連れていけ!」 雛森と吉良を連れて行く。 わずかに抜いた斬魄刀を、鞘に収めた。 「すんませんな、十番隊長さん。 うちのまで手間かけさしてもうて…」 「…市丸。」 日番谷が眉を寄せた。 「てめえ今… 雛森を殺そうとしたな?」 「はて。 何の事やら。」 「…今のうちに言っておくぞ。」 わずかに、日番谷の霊圧が上がった。 「雛森に血ィ流させたら、俺がてめえを殺すぜ。」 「そら怖い。 悪い奴が近付かんように、よう見張っとかなあきませんな。」 市丸はいつもと変わらず、にこにこと笑っていた。 「それと…」 日番谷がすっと指差した。 「は置いてけ。 俺が、朽木の所まで届ける。」 |