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「ん…っ…?」

 視線を感じて、日番谷は目を開けた。

 寝ぼけた瞳に映るのは。

「おはようございます、たーいちょ!」

 にっこり笑顔で挨拶をする松本。

「…おはよう、松本。 お前昨日はよくも…」

 言いかけて言葉を飲み込んだ。

 不自然な温もりと重みに、ゆっくりと、視線を落とす。

「なっ…!?」

 驚きのあまり、言葉が出ない。

 ソファで眠っていた

 その体に毛布を掛けた後、隣に座って眠ったはず…

 朝起きてみれば。

 日番谷の足に頭を乗せ、あつまさえ右手をぎゅっと握りながらが眠っている。

 俗に言う、膝枕。

「ち、違う! コレは…!!!」

 慌てふためく日番谷が面白いのだろう。

 松本はにやにや笑っていた。

「クソッ! バカ、!! さっさと起きろ!!」

 ぎゅっと握られている右手を振り解いて、真っ赤な顔で日番谷が怒鳴った。

「ん…」

 まだ眠いのか、少しダルそうにが目を擦る。

「…おはよう、白哉………」

「俺は朽木じゃねえ!!」

 起きた途端怒鳴られて驚いたのか、はぱっちり目を開けて日番谷を見た。

「あ、日番谷…? そうか、十番隊か。」

 一人で納得しているに、日番谷が呆れた声で言う。

「昨日も寝言で朽木の名前呼んでたぞ。 どう言う知り合いか知らねえけど、だったら六番隊に行けばよかっただろ。」

「…隊長、ヤキモチに聞こえますよ。」

「うるせえ。」

 松本の小言をさらりと流す。

「…悪い。 ありがとう、日番谷。」

「あ?」

 突然礼を言われ、日番谷が眉を寄せた。

「何だかんだ言いながら、泊めてくれただろう。 ありがとう。」

 素直にお礼を言われると、少し照れる。

 日番谷はぽりぽりと頭を掻いた。

 その様子を見て、松本が楽しそうに笑っている。

コンコン。

 ノックする音が耳に届いた。

「日番谷君いますか?」

 ひょこっと顔を出したのは。

「オイ、雛森。 日番谷君じゃなくて、日番谷隊長だろ。」

 日番谷が小さく息を吐いた。

 その声を流して、雛森は笑顔で言う。

「おはようございます、乱菊さん。 と………?」

 雛森はを見て首を傾げた。

だ。 おはよう。 と呼んでくれ。」

 が小さく笑う。

「あたし雛森桃。 おはようございます。」

 元気に挨拶を返すが。

「あれ? 何でこんな所にいるの?」

 もっともな疑問に再び首を傾げた。

「聞いてよ、雛森。 隊長ったら…」

 きっと面白おかしく脚色しながら、話を膨らませるだろう。

「松本!!」

 見かねた日番谷の、制止の声が響く。

「何の用だ、雛森?」

 と、雛森を見る。

「あ、うん。」

 手にしていた書類を、日番谷へ渡す。

「コレ。 五番隊(うち)に紛れてた十番隊の書類。 藍染隊長に言われて、届けに来たの。」

「そうか、悪いな。」

「ううん。 日番谷君がちゃんとお仕事してるのか、様子を見たかったし。」

 雛森の声に、小さく息を吐く。

「あのな、俺は…」

「わかってる。 冗談だよ。」

 にこりと微笑まれて、日番谷はぶすっとして黙った。

「じゃ、あたし行くね。 乱菊さん、また。」

「雛森!」

 手を振って十番隊執務室を去ろうとした雛森を、が呼び止めた。

「どこに行くんだ?」

 の問いに、首を傾げながら答える。

「五番隊舎。 早く戻らないと、藍染隊長に迷惑がかかるから…」

 五番隊。

 は小さく頷いた。

「一緒に行く。 連れて行ってくれ。」

「へ? でも…」

 雛森は少し驚いたように、日番谷を見た。

 その意味に気付いて、日番谷が首を振る。

は十番隊の奴じゃねえよ。 各隊を回ってるみたいだから、案内してやったらどうだ?」

「う、うん…」

 十番隊でないなら、何故執務室にいたのだろう。

 疑問は大きく膨らんで、雛森は首を傾げた。

「じゃ、世話になったな、日番谷。」

 雛森を急かし、が執務室を去った。

 嵐が去ったような、静寂に包まれる。

「あ、隊長。 何か食べて来たらどうです? 他の隊員たちが来る前に。」

「そうだな。」

 伸びをしてドアへ足を向ける。

 ふと。

「そう言えば…」

 は何か食べたのだろうか?

「どうかしました?」

「いや。」

 松本の声に首を振った。

 五番隊に行ったのだ。

 きっと藍染が、上手くやるだろう。

 日番谷は執務室を出た。


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