石田が眉を寄せた。 「…いつまで… 乗っているつもりだい?」 その言葉で、は我に帰る。 「すまない。 忘れていたよ。」 ぴょんと、ネムの元まで飛んだ。 ゆっくりと、その体を起こしてやる。 塀に背をもたれるように、座らせてやった。 「横になったままの方が楽か?」 が首を傾げる。 「…いえ… これで…」 石田が、二人の方へ足を向けた。 じぃっと、がネムを見回す。 (斬り傷に、殴られた痕……… 下衆め…) 苦々しく、唇を噛む。 「…ありがとうございます…」 突然の声に、目を丸くした。 「最初… 滅却師さんはマユリ様の頭を狙っていた… あなたが来てくれなければ、マユリ様は…」 ネムの声に、眉を寄せる。 「…マユリ様を… 助けてくれてありがとうございました。」 は言葉を探した。 「…あんな親でも、いた方がよいか?」 「…わかりません。 でも…」 ネムが続ける。 「生きているのがわかった時… 少し安心したから…」 … ―――。 の小さな手が、ネムの頭を撫でた。 「いい子だな。」 ザ 石田が、の背後に立った。 「…君は誰だい?」 もっともな言葉であろう。 斬魄刀に死覇装と、その姿は死神。 だが、侵入者である自分を見逃すと言ったり、涅の斬魄刀を砕いたり… その行動はめちゃくちゃだった。 「…覚えがあるよ。 …黒崎を助けたのは君だったね。」 現世に大虚が現れた時の話だ。 「それに… 白道門で会った。」 「よく憶えていたな。 感心するよ。」 が首を竦める。 「…もう一度聞こうか。 君は誰だい…? 敵なのか?」 軽く睨まれて、は首を竦めながら振り返った。 「…護廷十三隊・零番隊隊長… 防人が一人、…」 じぃっと、石田を見上げる。 「今度は私が聞こう。 お前の目的は何だ?」 が続ける。 「イチゴはルキアを助けると言った。 だが、お前はイチゴとは違う。」 少し、目を細める。 「避けれる戦いを避ける事もせず、死神を傷付ける事を躊躇わない。 何故だ?」 ずり落ちた眼鏡を、指でかけなおした。 「…おかしな事を聞くね。 僕が滅却師だからだよ。 死神は僕の敵だ。」 が唇を噛んだ。 「…強い力からは何も生まれない。 破壊を続けるつもりか?」 黒曜石の瞳が、石田を見据える。 「では聞くが… 君は、大切な人の仇が憎くないのかい?」 が眉を寄せた。 「仇…だと?」 だから、涅を殺そうとしたのだろうか? 「なるほど。 十分な理由だ。 だが…」 わずかに、目を細める。 「…仇討ちは醜い。 仇を討っても討ちもらしても… どちらにしても、後悔するだろう。」 石田が真っ直ぐにを見据えた。 「君には関係ないよ。 それに…」 眼鏡越しに、真っ直ぐに見据える。 「僕は滅却師だ。 死神達に、滅却師の力を証明するために、ここへ来た。」 はゆっくりと息を吐いた。 「…そうか。 ならば全て己の責任… 私は止めぬ…」 「止める…? 何の事だ…?」 石田は息を飲んだ。 背後に人の気配を感じて、振り返る。 「恨みは無い。 だが、平和の為には滅すも已むなし。」 九番隊隊長 東仙要が、その場に佇んでいた。 「鳴け、清虫。」 リ…ン… ド… 石田の体が、ゆっくり倒れた。 が息を吐く。 「…隊長自ら、剣を抜く必要もあるまい。」 「無意味な戦いを終わらせるためだ。」 東仙が答える。 「無意味… か…」 は小さく首を振った。 (さて。) 東仙がここにいると言う事は、近くに副官の檜佐木もいるはずだ。 「東仙、副官を借りるぞ。 ネムを運んでやらねば…」 「そうだな… 修兵。」 東仙の声に、檜佐木が姿を現した。 「手伝って差し上げろ。」 「…はい。」 檜佐木の返事を待って、東仙は姿を消した。 じっと、が檜佐木を見据える。 「な… なんだよ?」 「いや。 今時、隊長に片膝を付く副官もめずらしいと思っただけだ。」 檜佐木がぽりぽりと頭を掻いた。 「…前にあったのは東大聖壁だったから、言えなかったけどよ…」 一度を見て、照れくさいのか、視線を反らした。 「無茶をするな。 人質になったと聞いて、心配したぞ。」 「大事ない。 私は平気…」 「俺が嫌なんだ。」 の声を遮る。 が目を丸くした。 「いや、その…」 言葉に詰まる。 「…封霊環4つも付けられて… それに、いくら腕に自信があると言っても、は女で… この間だって倒れたばかりだし……… …とにかく…!」 何を言っているのかわからなくなってしまい、小さく息を吐く。 檜佐木が、まっすぐにを見据えた。 「…無茶しないで、大人しくしてろよ。」 突然すぎた言葉に、きょとんとしてしまう。 まさか、本気で心配していたと言うのだろうか。 人がいいと言うか、バカ正直と言うか… 檜佐木のこう言った所が、好きだった。 「ああ。 気を付けるよ。」 はにこりと笑った。 |