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『自分だけが辛いなんて思うな!!』

 脱獄した恋次が、を見据えて怒鳴った。

『隊長は… 朽木隊長は…!!』

 封印されている間、毎日の許へ足を運んでいた事。

 そして、物憂げな瞳でそれを見上げていた事を、聞いた。

 日番谷の許にいた最中、恋次達が脱獄したのを知った。

 傷の回復も気になっていたので、顔を見ておこうと思い、その霊圧を頼りに探した。

 ルキアを助ける話をしようと思ったのに…

 話がそちらに反れるなんて、予想もしていなかった。















 吐息が重なる。

 髪が交じる。

 体が熱い。

…」

 抱かれている間、何度も名前を呼ばれた。

 初めての情事に不安もあったが、それ以上に不思議と満たされている気持ちが強かった。

…」

 何度も、耳元でその名を囁く。

「せめて今は… 私の事だけを考えてくれ…」

 白哉の手が、少女の滑らかな肌を滑る。

 は身を委ねていた。

 二つの霊圧がぶつかっているのを感じた。

 よく知る、霊圧だ。

 日番谷と、市丸。

 戦っているのだろう。

 己の、護りたい者のために。

「………」

 護ると、心に決めたが。

 その決意も、この温もりの前では霞んでしまう。



 ずっと、一つになりたかった。 ―――



 本当はずっと知っていた。

 自分の気持ちが誰に向いているのか。

 拒まれるのが怖くて、口に出来なかっただけ。

 もし、白哉に出逢うより先に、浦原に出逢っていたなら。

 その時は、自分の気持ちがどちらに向いていたのかわからない。

(醜い…)

 浦原の気持ちを知りつつ、その居心地のよさに甘えていた。

 浦原はどんな時でも、を拒まなかった。

 不安に揺れた時、一緒に逃げようと言ってくれた。

 その言葉に、どれほど救われたかわからない。

 妾の子として生まれ、一族に煙たがれていた。

 霊力を持たないクズと、罵られ続けた。

 実の母親でさえ、その命を絶とうとした。

 誰からも、必要とされなかった。

 初めて、人として接してくれたのが、幼い白哉だった。

 その時から。

 の心は白哉に捕らわれたまま。

「白哉…」

 呼ばれるままに、その小さな手を握る。

「もっと… 名前を呼んで…」

 白哉はあまり言葉を発しない。

 求婚された時だって、「好きだ」とか、「愛してる」だとか、そんな言葉はくれなかった。

…」

「…もっと………」

 不安で堪らなくなる。

…」

 こうして名前を呼ばれている時は、白哉の瞳にはしか映っていない。

 醜い、独占欲。

 自分も所詮は女であると、思いしらされた。

「二度と… 私の側を離れるな、…」

 甘く囁く白哉の声。

 が唇を噛んだ。

「私の科白だ………」

 恨めしそうに、白哉を見上げる。

 その腹に残る傷跡に、眉を寄せた。

「二度と… 私を離すな、白哉………」

 何度目かわからない口付けと共に、二人の肌が重なった。

 猫の爪のような細い月の出た夜だった。


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