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「………」

 スッと、目を開けた。

「!?」

 思わず悲鳴を上げそうになり、慌てて言葉を飲み込んだ。

(そうか、昨日は………)

 白哉に抱かれた事を思い出し、顔が熱くなる。

 すぐ近くに、白哉の顔があった。

 まだ、規則正しい寝息を立てている。

 女のが見惚れてしまうほど、その寝顔は綺麗だ。

 腕枕をされて、もう片方の手で優しく抱き締められていた。

 起きるには惜しい温もりだと思いつつ、ゆっくりとその腕をどかす。

ぎゅ…

「きゃ…!」

 強く抱き締められて、思わず悲鳴を上げる。

 白哉がゆっくり目を開けた。

「お、おはよう、白哉…」

 その腕から抜け出そうとする小さな体を、ぎゅっと抱き締めた。

「こ、コラ。 そろそろ起きぬと、遅刻だぞ…」

「離すなと言ったのはお前だ…」

 寝ぼけているのだろうか。

 そう言って再び眠りにつこうとする白哉に、は顔を真っ赤にして怒鳴った。

「こう言う意味ではないっ! ///// 」

 枕元にたたまれた寝着で体を覆い、白哉の腕の中から逃れる。

 じぃ〜…

 視線を感じて、再び怒鳴った。

「見るな! 助平!」

 小さな気配に、白哉がわずかに眉を寄せた。

「…地獄蝶か…」

 突然現れた黒アゲハを、じっと見据える。

『 隊長並びに副隊長各位にご報告申し上げます。 』

 黒アゲハが続ける。

『 極囚・朽木ルキアの、処刑の日程について最終変更がありました。 最終的な刑の執行は 明日の正午です。 』

 が息を飲む。

「白哉、これは…!」

『 これは最終決定です。 以降、日程の変更はありません。 以上… 』









ダンダンダンダン…

「白哉!!」

 騒がしい足音に、白哉が眉を寄せて振り返った。

「大変だ! 朽木の処刑が…」

 浮竹だった。

「聞いている。 私の処へも地獄蝶が来た。」

 の瞳がわずかに揺らいだ。

「そうか! それなら話が…」

「だが、それが何だと言うのだ。」

 浮竹の言葉を、冷たい声が遮る。

「…何だと?」

 浮竹が眉を寄せた。

「処刑は明日。 それが決定ならば、私はそれに従うまでだ。」

 白哉が踵を返す。

「つまらぬ話で呼び止めるな。 失礼する。」

 浮竹が唇を噛んだ。

「お前! ふざけるのも大概にしろよ!」

 ガッと、白哉の胸元を締め上げる。

「いつまでそんな事を言ってるつもりだ! 明日なんだぞ! 本当に!」

 は何も言わない。

 きっと誰が何と言っても、白哉はルキアの処刑を止めないだろうとわかっている。

「明日の正午には、お前の妹は本当に…」

 浮竹が息を飲んだ。

「げほっ、ごほっ… ごほっ!!」

 胸を押さえて、咳き込む。

「浮竹!」

 が眉を寄せた。

「…逸るな。 命を縮めるぞ、浮竹。」

 白哉の声は冷たい。

「兄は一度、部下を見殺しにしているではないか。 …二度も三度も、大差なかろう。」

 浮竹が白哉を睨んだ。

「…ともかく、あれは私の家の者だ。 例え 死のうと殺されようと、兄の知ったところではない。 呉々も軽挙は、謹んでもらおう。」

 去り行くその背を見据えながら、浮竹は唇を噛んだ。

(繰り返すのか、再び………)

 百五十年前の出来事が、脳裏に浮かぶ。

(中央の決定が覆らないのは知っている。 だが…)

「それでも… それでもを助けようと… 必死になっていたじゃないか…!」

 ぎゅっと、拳を強く握った。

「…素直になれよ、白哉… お前を見ていると… 胸が痛む…」


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