(阿散井………) 『俺は、ルキアを助ける。』 『………そのために、命を懸けた戦いを強いられてもか?』 恋次は笑った。 『命を懸けた戦いか… 上等じゃねえか。』 目を丸くしたに、恋次は言った。 『俺は、もう迷わねえ。 ルキアを助けるためだったら… 月にだって吠えるさ。』 迷いなきその剣は、きっと月にだって届くだろう。 『…私に、出来る事はあるか?』 恋次がを見据えた。 『一つだけ… 頼みがある。』 『何だ? 言ってみろ。 私に出来る事ならなんでも…』 ポンと、肩を叩かれた。 『何もしないでくれ。』 が言葉を飲み込んだ。 『止めないでくれ。 それだけだ。』 グッと、少女の肩に置いた手に、力が入る。 『…俺の、気の済むようにさせてくれ。 頼む。』 手は出せない。 それが、恋次との約束だから。 (…阿散井………!) シズマレ。 鎖と布が巻かれた、腰の斬魄刀の柄をぎゅっと握って耐える。 シズマレ…! ザ… 「幕を引く… か…」 白哉がゆっくり立ち上がった。 「よかろう。」 ゆっくり、振り返る。 「ならばその幕、私の剣で引くまでだ。」 恋次が眉を寄せた。 「…言っただろが。 もう忘れたのかよ? 俺にはもう、あんたの剣は見えてんだ… 幕を引くのは…」 剣を振った。 「俺の剣だ!!!」 その巨大な刀が、凄まじい霊圧を放ちながら、白哉に向かう。 避けようともせず、白哉はそれに指先を向けた。 「破道の三十三。」 「!」 恋次が息を飲む。 「蒼火墜。」 ドン 大爆発が起こった。 「くッ!!!」 恋次が奥歯を噛み締めた。 (詠唱破棄!! 言霊を無視した中級鬼道でこの威力かよ!!) 卍解が弾かれた。 ザッ 立ち込める土煙の中、影が動いた。 「甘え!! この程度であんたの動きを…」 剣を振るう。 「見失うとでも思ったのかよ!!」 再び、恋次の斬魄刀が白哉に向かった。 (ダメだ…!) が唇を噛む。 グワッ 「!」 恋次が目を丸くした。 白哉に届く寸前で、浮き上がった自らの刃節に突っ込んだ。 砕ける。 「ちッ!!」 (操り損ねたか!!) 「…甘いのは貴様だ。」 白哉が背後から声をかけた。 「私が鬼道を放ったのは、目眩しの為ではない。 貴様の卍解の動きを乱す為だ。」 「 ――― !」 白哉の言葉に、息を飲んだ。 「卍解の欠点は、霊圧に比例したその巨大さにある。」 白哉の瞳が揺れた。 「刀剣としての常識を超えた形状と巨大さ故に、その動きの全てを完全に把握する為には… 卍解を会得してなお、十余年の鍛錬が必要だ。」 白哉は続ける。 「恋次…」 じぃっと、恋次を見据えた。 「貴様はまだ、卍解で戦うには早過ぎる。」 恋次が眉を寄せた。 「…それがどうした?」 続ける。 「こっちはそんなこと解った上で来てんだよ… 幸い俺の斬魄刀はニブくてな…」 力任せに振り上げた。 「刃節一つ砕けたぐらいじゃ、何も変わりゃしねえんだよ!!」 恋次の卍解が白哉に伸びる。 「縛道の六十一。」 白哉の指先に光が灯った。 「六杖光牢。」 ドン 恋次の体を、光の帯が貫いた。 (しまっ…!) 体の自由を奪われた。 「…素直に剣を退けば良いものを… まだ私を倒せる気でいるという訳か…?」 白哉が斬魄刀を逆手に取った。 「…まさか、貴様… 失念している訳ではあるまいな…」 体の前に、それをかざす。 「私にも… 卍解があるということを…」 「!!!」 恋次が目を見張った。 「 ――― 卍解。」 スッと。 白哉の手から離れたそれは、音もなく、ゆっくり… 地面に沈んで行く。 キィ…ン 恋次は目を疑った。 ザァアアァァァ 無数の、巨大な刀身が、地面からゆっくりと立ち上る。 ザァ…ッ 「散れ。」 白哉の声が、やけに冴えて聞こえた。 「千本桜 景厳。」 無数の刀身の、その刃が舞い散る。 それは光を浴びて、煌いた。 ドッ 何が起こったのかわからなかった。 背後にある構造物が音を立てて崩れて… 気が付いたら、血が吹き出ていた。 いつの間に斬られたのだろう、それすらわからない。 ただわかったのは。 今の自分と白哉との、決定的な力の差。 ダン 立っている事すら敵わなかった。 髪留めはその霊圧で焼き切れ、恋次の卍解も粉々に打ち砕かれた。 「私と貴様で、何が違うのか教えてやろうか…」 舞い散る光の刃が、まるで花びらのように風に揺れている。 「格だ。」 恋次には、白哉を見上げる事しか出来なかった。 「猿猴捉月。」 白哉の声は、いつもと変わらず冷ややかだった。 「けだものの眼に映るのは、所詮水に映った月までだ。」 その声が、恋次の耳に必要以上に大きく響く。 「それを捉ろうとあがいても、ただ水底に沈むのみ。」 グッと、唇を噛み締める。 「貴様の牙は、私に届く事はない。 永遠にな。」 去り行くその背を睨む事しか出来なかった。 圧倒的な力の差。 悔しかった。 自分の剣は… 月には届かない。 ――― |