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 はじめて見た。

 白哉の卍解。

 いつの間に、卍解を習得したのだろう。

 はそれを知らない。

 自分と戦った時に、これを使われていれば…

 本気で、戦わざるをえなかったかも知れない。

 そう考えると、言葉を探せなかった。





「…足許より立ち昇る千本の刃。」

 風に、その刃が花びらのように揺れる。

「その千本の刃が散る事によって生まれる無数の刃は、最早 その数を知ることさえかなわぬ。」

 白哉が続ける。

「軌道を読むことはできぬ。 躱すことなど なおできぬ。」

 無残な姿となった構造物から、霊子が煙となり立ち込めている。

「風を見送るが如く、全ては唯、立ち尽くし塵に帰すのみ。」

 それは風に乗って流れた。

「誇るがいい。 この刃をその身に受けてなお、人の形を保っていることを。」

ピクッ

 白哉が足を止めた。

「…何だ。 まだ息があったか…」

ズ…

 恋次がゆっくり動いた。

「…動くな。 命を縮めるぞ。」

シュゥウウ…

 恋次の卍解から、煙が上がった。

バシュッ バシュッ…

 白哉がゆっくり振り返る。

「…まだだ…」

 グッと、斬魄刀を握る手に、力を込めた。

「まだ、俺は… 戦えるぜ…!!」

ダン

 普通の刀の姿に戻った斬魄刀を手に、白哉に向かう。

「…聞こえなかったのか?」

ザァアッ

 白哉の声に反応するように、空気中を舞っていた花びらが形を成して行く。

「動くなと言ったのだ。」

ドッ

「!!!」

 再び刀の形を成したそれが、容赦なく恋次を襲う。

「アアアアァアアア!!!」

 恋次の行く手を阻むように地に。

 そして、二度と向かうなとでも言うように、二本はその腕に突き刺さった。

 白哉がゆっくり、足を進めた。

「褒めてやろう。 私の卍解を受けて、まだ息があるというところ迄はな。」

 恋次の腕を突き刺した刀の内の一本を、手に握る。

「だが、次に動けば容赦せぬ。 貴様の五体、私の刃で…」

ズ…

 それを引き抜いた。

「悉く塵にしてくれる。」

 切っ先を、恋次に向けた。

ゴク…ッ

 生唾を飲み込んだ。

 白哉は、本気だ。

 次に動けば、本気で恋次を斬るだろう。

「…貴様も解っているだろう。 卍解は消えた。 意志に反する卍解の消滅は、持ち主の死期が近い事を意味する。」

ザァ…ッ

 白哉の手の内のそれは、再び花びらのように宙を舞い…

「貴様は直に息絶える。 立ち上がるのならば、私が殺す。」

 白哉の声は、その霊圧と共に棘のように恋次に刺さった。

「…今一度問おう。」

 再び宙に舞った花びらは無数の刃に姿を変えて、その切っ先を揃えて恋次に向けた。

「それでも猶、貴様は…」

 白哉の声が耳に痛い。

「ルキアを救うなどと戯れ言を言うか?」



「………」

 消え入りそうな細い呼吸を繋ぐのが精一杯だ。

(息が… できねえ…)

 自分に向けられる白哉の卍解…

(霊圧で… 灰になっちまいそうだ…)

 体の感覚がない。

(もう… 指一本も動かせねえ…)

 足許にすら及ばない。

 卍解を習得した如きで、白哉を倒せる気でいたが、やはり甘かった。

(ダメだ… 遠すぎたんだ… ――― )

 それは譬えるなら、地に足を付けて見上げた月のよう。

(やっぱり俺は、この人には…)

 キツク、瞳を閉じた。

( ――― 勝てねえ ――― …!!)

ザァッ

 恋次は目を見張った。

『…まだ立ち上がるのか。 …一護…!』

 卍解の修行中。

 何度、己の斬魄刀に切り伏せられても、一護は笑った。

 恋次が笑った。

「…あたり、めーだろ…」

「………何?」

 白哉が眉を寄せる。

「誓ったんだよ… 絶対に助けるってな…」

 グッと、足に力を入れた。

「…誓い… だと?」

 白哉の冷ややかな声が響く。

「誰にだ?」

 斬魄刀を握る手の甲に突き刺さった、白哉の卍解の刃。

「誰でもねえよ…」

 それを、引き抜こうと強く握った。

「 ――― ただ俺の ――― …」

ガシャン

 力任せに、その刃を砕いた。

「魂にだ!!!!」

ドン

 立ち上がった。

 血塗れで、虫の息… それでも…

 月に向かう己を阻む物を、粉々に砕いて、恋次は立ち上がった。

 想いは一つ。

ルキアを助ける ―――

 白哉は目を丸くした。

 恋次が、歯を食い縛る。

ドッ


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