「…先に言うておくかの。 …」 総隊長がを見据えた。 「指先一つでも動かせば… ここにおる全員でお主を捕える。」 「!」 の行動を読んでいるのだろう、総隊長の声は冷ややかだ。 (…全員でかかられたら、流石に厳しいか…) 何とかルキアを救う手はないだろうか。 必死に思考を巡らせる。 グッ 「! 白哉…!」 目を丸くして振り返る。 白哉が片腕で、少女を抱きかかえた。 「………」 白哉は何も言わず、双極を見据えたまま、と目も合わせない。 「よいじゃろう。 放すでないぞ、朽木。」 双極が解放された。 ゆっくりと、確実にその霊圧が上がる。 ルキアが、矛を見上げた。 これから処刑されると言うのに、何故、そんなに冷静でいられるのだろう。 が眉を寄せた。 今のルキアの気持ちが、手に取るようにわかる。 封印される直前の、自分を見ているようだ。 「…ありがとうございます… 兄様…」 その声が聞こえているはずなのに、白哉は何も言わない。 目を合わせようともしない。 が唇を噛んだ。 「…放せ、白哉…」 それでも、白哉は何も言わない。 「…お前に代わって、私がルキアを助ける…! 手を放せ、白哉!」 ズズ… ズ…ッ ザァッ ブンッ ルキアの小さな身体が、ゆっくりと双極の磔架に登って行く。 「…七緒ちゃん。 そんな辛い顔しなさんな。 ボクまで悲しくなっちゃうじゃないの。」 京楽の声は優しい。 「…辛くて… このような顔をしている訳ではありません…」 伊勢七緒が眉を伏せた。 「…ちゃんも。 そんな顔しないで…」 笠を、目深に被る。 「…私は… 辛い…!」 が唇を噛んだ。 ボッ 炎が巻き上がった。 ゴォオオオオ 「んな… 何だ!? 何が起きてんだ、こりゃあ!?」 二番隊・副隊長の 大前田が叫ぶのも無理はない。 異様な光景だった。 「矛を…」 砕蜂も。 「炎が包んで…」 四番隊・副隊長の 虎鉄勇音も目を見張った。 「形を変えていく…!」 双極の矛を、炎が包んで行く。 「…こいつは驚いたね…」 京楽の声に、は白哉に抱えられたまま双極を見上げた。 炎の、鳥。 それが真っ直ぐにルキアを見据える。 「燬コウ王。」 総隊長の山本元柳斎重国が続ける。 「双極の矛の真の姿にして、極刑の最終執行者。 彼が罪人を貫くことで、処刑は終わる。」 その場に集まった者達が、双極を見上げる。 ドクン ――― の心臓が、大きく脈打った。 ルキアは真っ直ぐに燬コウ王を見据えた。 (恐ろしくはない。 私は良く生かされた。) 「…ルキア…!」 が唇を噛んだ。 (恋次達と出会い、兄様に拾われ、海燕殿に導かれ、そして…) ルキアの脳裏を過ぎるのは。 (一護に救われた。) 二月程、生活を共にした人間の少年。 ドクン ――― 心臓が破裂しそうだ。 がグッと、胸元を押さえた。 今のルキアは、封印される直前のと同じ気持ちなのだろう。 だから、その気持ちが手に取るようにわかる。 そして。 それを見てる今のは。 が封印される時その場にいた、浦原喜助と同じ気持ちなのだろう。 『…諦めませんよ。 必ず助けて差し上げます。』 (喜助…!!) 強く唇を噛む。 浦原がそう言った気持ちが、ルキアの処刑を目前にして痛いほどわかる。 (諦めるな、ルキア! お前を救おうと、この場に仲間が向かっている…!) ルキアの心境は、とても穏やかだった。 (つらくはない。 悲しくはない。 悔いはない。 心も、遺してはいない。) 何故、ここまで冷静でいられるのだろうか。 (ありがとう。 ありがとう。 ありがとう。 ありがとう。) 恋次や十三番隊の仲間、現世で出会った友人、そして朽木白哉… 様々な人が、ルキアの脳裏を過ぎった。 その中で最も、強く印象に残っているのは。 オレンジ色の髪をした、少年。 「さよなら。」 ルキアの瞳から、涙が溢れてその頬を伝う。 「!!」 が唇を噛んだ。 「嘘を吐くな、ルキア…! 悔いもなく、心も遺していない者が、涙など流すものか…!」 をしっかり抱きかかえたまま、白哉は動かない。 「手を放せ、白哉っ!!!」 どれだけ暴れてももがいても、その腕から抜け出すことは出来なかった。 燬コウ王がルキアを見据える。 ルキアがキツク目を閉じた。 空が朱に染まった。 |