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 恐る恐る目を開ける。

 処刑とは、案外あっさり終わる物なのだろうか?

 何の痛みも衝撃もなかった。

「………」

 ルキアは目を見張った。

 巻き起こった風に、その髪が揺れる。

 目の前で、燬コウ王を止めているのは。

 オレンジ色の髪の死神。

 信じられなかった。

 だが確かに、燬コウ王をその斬魄刀で止めている。

「 ――― い ……」

 驚きで声が上擦った。

「…一護…!」

 炎のように燃える燬コウ王を背に、その鮮やかなオレンジの髪が燃えているように見える。

 ルキアを見て、一護は笑った。

「よう。」

 別に何を言うわけでもなく、普通に挨拶をする。

「 ――― あ…」

 胸が締め付けられるようだ。

 何か言おうとして、ルキアは一度唇を噛んだ。

「莫迦者!! 何故 また来たのだ!!!」

「あ… あァ!?」

 突然怒鳴られて、一護が声を張り上げる。

「貴様ももう解っているだろう! 貴様では兄様には勝てぬ!!」

 自分を見上げて必死に訴えるルキア。

「今度こそ殺されるぞ!!」

 一護は言葉を探せなかった。

 こんな時にまで…

「私はもう覚悟を決めたのだ!! 助けなど要らぬ!!」

 処刑台に張り付けられているこんな時にまで、ルキアは自分ではなく、一護の身を案じている。

 一護が眉を寄せた。

「帰れ!!!」







「…ば… 莫迦な…!!」

 その様子を見上げていた死神達が、驚きに目を見張る。

「止めたというのか…! 斬魄刀、百万本に値する破壊能力… その双極の矛を斬魄刀一本で…!」

 砕蜂が目を細めた。

「奴は… 奴は何者だ!!!」

 卯ノ花も、総隊長の山本も息を飲む。

「七緒ちゃん… もしかしてあの坊やが旅禍の彼が言ってた…」

 京楽の声に、伊勢が答える。

「はい。 外見的特長も、隊員達からの報告と一致します。」

「そうか…」

 京楽が細く笑った。

「結局間に合ったのは… 彼等の方だったって訳だね…」

 を抱えたまま、白哉が一護を睨み上げた。

「イチゴ…!! 良くやった!!」

 は手を叩いて喜んでいる。

キァァァアアアア

 燬コウ王が鳴いた。

ドン

「うおっ!?」

「一護!!」

 突然の衝撃に、一護が振り返る。

バサアッ

「第二撃の為に距離をとったのか… …いいぜ、来いよ。」

 距離を取った燬コウ王を見据えて、一護が斬魄刀を構える。

「よ… 止せ一護! もうやめろ!! 二度も双極を止める事などできぬ!!」

 ルキアが制止の声を投げた。

「次は、貴様まで粉々になってしまう!!」

 燬コウ王が、一護をめがけて突っ込む。

「一護!!」

ゴォオオォッ

 何かが、風を切って燬コウ王に伸びた。

ガシャン

「!!」

 そのまま、その首に絡み付く。

「な… 何だありゃ!?」

 大前田が目を丸くした。

ダン

 誰かが駆けて来た。

 十三番隊の浮竹と、第三席の二人である。

ジャァアアアアアア

ドン

 燬コウ王に巻きついたそれは、そのまま地に突き刺さった。

 その先端に触れたのは。

「よう、この色男。 随分待たせてくれるじゃないの。」

 京楽だった。

「京楽隊長!!!」

 一体何をしようとしているのか、検討も付かない。

 総隊長の山本が、目を見張った。

 浮竹が持って来た物は…

「済まん。 解放に手間取った。 だが… これでいける!!」

 浮竹の声に、が目を丸くする。

(四楓院の家紋… 浮竹、まさか…)

「止めろ!!」

 と同じ事に気付いた砕蜂が、声を投げる。

「う… ええ!? 俺がスか!?」

 突然の砕蜂の声に、副官である大前田が驚いて飛び上がった。

「奴等… 双極を破壊する気だ!!」

 砕蜂の声と同時に、浮竹と京楽が抜刀した。

 四楓院の家紋の刻まれたそれに、同時に刃を滑らせる。

キュ オッ オァンッ…

バン

 燬コウ王が散った。

 衝撃で風が巻き起こる。

「ぅあッ!?」

 その衝撃に、皆その場に身を屈めた。

(…斬魄刀を介して霊圧を取り込み、それを増大させて、双極を砕いたのか…?)

 どう言う仕組みになっているのかわからないが、これでルキアの処刑は止められた。

(さて… ここからどうするのだ、イチゴ…)

 が双極を見上げる。

ダン

 一護が双極の磔架に登った。

「な… 何をする気だ、一護!?」

 ルキアが不審そうに訊ねる。

「決まってんだろ。 壊すんだよ、この… 処刑台を!」

 一護はそう答えて、斬月を振り回す。

「よ… 止せ!! それは無茶だ!!」

 ルキアが弾けたように一護を見上げる。

「いいか! 聞くのだ、一護!! この双極の磔架は…」

「いいから…」

 ルキアの声を遮って、逆手に斬月を握る。

「黙って見てろ。」

 ルキアが目を見張った。

「 ――― 一… 護…」

ゴッ

 そのまま、まッ逆さまに斬月を突き刺した。

オ ア ッ

 一護の霊圧が風を巻き起こし。

ドン

 双極の丘に、轟音が轟く。

「…助けるなとか、帰れとか… ゴチャゴチャうるせーんだよ、テメーは。」

 土煙に包まれて、何がどうなったか、わからなかった。

「言ったろ。 テメーの意見は全部却下だってよ。」

 その声は優しく、ルキアは言葉を探せない。

「二度目だな。 …今度こそだ。」

 土煙が晴れた。

「助けに来たぜ、ルキア。」

 双極の磔架の上。

 一護はルキアを片手に、そこに立っていた。

 ルキアが眉を寄せた。

 絶対に追って来るなと、強気で啖呵を切ったのに。

「…礼など… 言わぬぞ… …莫迦者…」

 その瞳に涙が浮かんだ。

 一護が細苦笑って頷く。

「…ああ。」

 双極の下では。

 朽木白哉が待ち構えていた。


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