「そ… 双極の磔架を…」 誰一人、その光景を信じられなかった。 「ブッ壊しやがった…!」 ただ目を丸くして、驚くことしか出来ない。 「…な…」 全ての視線は、双極の磔架を見上げている。 「何なんだ、あいつは!?」 「………」 その腕に抱えられたまま、が白哉を見上げる。 白哉は、一護を睨み据えていた。 は小さく息を吐いた。 (白哉… 見逃せ。 お前だって、本心ではルキアを処刑になどさせたくないのだろう。) が小声で囁くが、白哉は一護を睨み据えたまま何も言わない。 (やはり無駄か… 何故、こうも頭が固いのだ…) 肩を落として、一護を見やる。 一護も、ルキアを片手に白哉を見据えていた。 「ん…?」 突然、地に下ろされて、が白哉を見上げる。 「…少し、離れていろ。」 そう告げる声は冷ややかで。 「すぐに終わる…」 かなり機嫌が悪いようだ。 その霊圧に、空気が震えていた。 「い… 一護…」 ルキアの声に、一護は我に返る。 「訊くが… これからどうする気だ…? これ程の目の前で、上手く姿を晦ませる方法など…」 「逃げる。」 ルキアの声を、一言で遮る。 「! む… 無理だ! 相手は隊長だぞ!! 逃げ切れる訳が…」 ルキアが弾けたように一護を見上げた。 「じゃあ全員倒して逃げるさ。」 どこまで本気なのだろうか。 一護の本心が全く読めない。 「オマエだけじゃねえよ。 井上も石田も、チャドだって来てるんだ。」 一度の声に、ルキアが目を丸くした。 「岩鷲も花太郎も。 手伝ってくれた連中はみんな、助け出して連れて行く。」 一護は不敵に笑っていた。 その顔を、じぃっと見据える。 眼差しから、言葉から… 一護の力が流れ込んでくるようだ。 (強くなったのだな… 一護 ――― …) ガシャアッ 「ぐあッ!?」 突然の物音と悲鳴。 「な… 何だ…!?」 ルキアも一護も、視線を移した。 ドスッ 「ぅわあ!?」 ガッ ゴッ 「うっ!」 ドッ 「ぉぐッ!?」 が振り返った。 「! 阿散井!」 駆け付けたのは他でもない、恋次だった。 恋次が双極を見上げる。 「ルキア!!!」 「!」 恋次の姿を見て、一護が何やら閃いた様な表情で笑った。 「良かった! 生きておったのだな、恋次!! 良かっ…」 「恋次!」 喜ぶルキアの声を遮って、その体を高く持ち上げる。 「ん?」 「あ!?」 「んー…?」 当人であるルキアはもちろん、恋次やも首を傾げる。 「お… おい、一護っ!? 何をする気だ、貴様!?」 眉を寄せるルキアにお構いなしに、一護は更に高くルキアの体を持ち上げる。 「待てよ、コラ… …てめえ、まさか…」 不審そうに眉を寄せる恋次の前で。 「受け取れっ!!!」 ルキアの小さな体を、双極の下にいる恋次に向かって投げ付けた。 「きゃああああああああ!!!!」 まッ逆さまに投げ付けられ、ルキアが甲高い悲鳴を上げる。 「馬鹿野郎―――!!!!」 力の限り一護を怒鳴りつけて。 がっしぃ。 ルキアの体を受け止める。 ずさぁ ゴロゴロゴロ… 突然の衝撃に堪えきれず、ルキアを受け止めた恋次はそのままかなりの距離を転がった。 「あはっ☆ やるな、イチゴ♪」 それを見ていただけのは嬉しそうに笑うが。 「…ば…」 投げ飛ばされ、転がされた当人達は楽しくも嬉しくも何ともない。 「莫迦者!! 一護、貴様あ!!!」 ルキアは涙ながらに怒鳴りつけ。 「落としたらどうすんだ、この野郎!!!」 そのルキアを抱えたまま、恋次も声を上げる。 「連れてけ!!!」 二人の声を聞き流して、一護が叫んだ。 「な…」 無視された事に軽く怒りを覚え、そして突然の一護の声に二人が訝しそうに眉を寄せる。 「ボーッとしてんな!! さっさと連れてけよ!!」 恋次を真っ直ぐに見据えて、一護は続けた。 「てめーの仕事だ! 死んでも放すなよ!!」 恋次が唇を噛んだ。 グッとルキアの肩を強く抱いて、一目散に駆け出す。 追う素振りすら見せぬ白哉は、逆に不気味だった。 駆け出した恋次を見て、一護は細く笑う。 「あ… 阿散井…!」 突然現れた恋次に、そしてその行動に、誰一人動けなかった。 「何を呆けておるのだ、うつけ共!! 追え!!! 副隊長全員でだ!!」 砕蜂が声を投げる。 三人の副隊長が同時に駆け出した。 「! 待て! 追うな…!」 飛び出そうとしたより先に。 ザン 一護がその道を阻んだ。 「!!!」 一瞬の内に目の前に現れた一護に、三人が息を飲む。 ブゥン ドッ 一度振り上げて、斬月を地に突き刺した。 「邪魔だァ!!!」 目の前に立ちはだかる敵を、大前田が怒鳴り付ける。 「奔れ!! 『凍雲 』!!!」 「穿て!! 『 厳霊丸 』!!!」 「打っ潰せ!! 『 五形頭 』!!!」 三人が同時に、斬魄刀を解放し… ドン その斬魄刀もろとも、大前田を打つ。 !!! その速さに、その強さに、他の二人は目を疑った。 驚く間もなく、二人目を薙ぎ倒して、一護が身を翻す。 (そんな… 斬魄刀も… 使わずに ―――) 虎鉄勇音が息を飲んだ。 ドッ 三人が弾け飛ぶのも、ほとんど同時だった。 オ ア 身に覚えのある殺気。 ガン 一護がその刃を受けた。 チリ…ッ その霊圧に、わずかに空気が震えている。 「…見えてるって言ったろ。 朽木白哉!」 刃を交えるのは、三度目。 白哉に挑むのは三度目。 もう、敗北は許されない。 |