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ガァン

 凄まじい轟音と、巻き上がる土煙。

(…霊圧を飛ばしたか…)

 は別段驚いた様子もなく、冷静にそれを見ていた。

サァァァァアアアア

 土煙が徐々に晴れて行く。

 先にの瞳に映ったのは白哉だった。

(無事か。 まぁ、当然…)

パサッ

「…!」

 は目を丸くした。

パタッ

 地面に散る、鮮やかな紅。

パタッ パタタッ タッ

 手甲が切れていて、その左腕を一筋の血が伝っている。

「…今の光は何だ。 貴様の斬魄刀の能力か…?」

 土煙が晴れたそこは。

「黒崎一護…!」

 地面が裂けていた。

 一護がじぃっと白哉を見据える。

「ああ。」

 頷いた。

「…斬撃の瞬間に俺の霊圧を喰って、刃先から超高密度の霊圧を放出する事で、斬撃そのものを、巨大化して飛ばす。」

 浦原との勉強会で、その帽子を落としたのもこれだった。

「そいつが斬月の能力だ。」

 自信に満ちたその表情に、が細く笑った。

(解り易くて良い。 お前らしいな、イチゴ。)

「俺に斬月のことを伝えられるのは、斬月だけだったんだ。」

 その斬撃の名は。

「『月牙天衝』。」

 グッと、一護が斬月の柄を握る。

「…もう一度言うぜ、朽木白哉。」

 ドンと、そのまま斬魄刀を地に突き刺した。

「卍解して俺と戦え!!!」

 無表情だが、白哉の霊圧がわずかに上がった。

「俺は絶対に、てめえを倒す!」

(月牙天衝…)

 が、一護の斬月を見据える。

(月に牙を向け…)

「…天を衝くか… …大逸れた名だ。」

 その言葉を口にしたのは白哉だった。

「 ――― よかろう。」

 自分の斬魄刀を、目の前に翳した。

「それほど強く望むのならば、私の卍解… その眼に強く刻むが良い。」

 その柄から、静かに手を放す。

(…剣を… …放した ――― …?)

 一護が眉を寄せる。

「案ずるな。 後悔などさせぬ。」

 白哉が目を細めた。

「その前に貴様は、私の前から…」

ズ…

 何かが、地面から立ち上った。

「塵となって消え失せる。」

 刀の、刃だ。

 思いもしていなかったその光景に、一護が目を見張った。

「卍解 『千本桜景厳』。」

 白哉の声が静かに響いて…

 その無数の刃が散った。

 息を飲む。

 目を奪われたのは一瞬だけで、一護はすぐに身を翻した。

 自分を襲う無数の刃を交わして、斬月を振る。

ズ オ ア

 月牙を飛ばす。

「…甘い。」

バン

「!」

 弾かれた。

 予測不能なその動きに、目を見張る。

ズオッ

 後ろを取られた。

ガッ

 斬月で刃を受ける。

オア ン

 一護は息を飲んだ。

 残りの他の刃が、背後から…

ドン

 白哉の卍解が、一護の体を押しつぶした。

 その霊圧に、土煙が舞い上がる。

「…千本桜の真髄は、数億に及ぶ刃による死角皆無の完全なる全方位攻撃だ。」

 白哉の声は相変わらず冷ややかで、命を懸けた戦いとは思えない。

 この男が熱くなる事などあるのだろうか?

「貴様の斬魄刀の能力は確かに高い。 だが ―――」

ドン

 大きく窪んだ地の底で、一護が身を捩った。

「………!」

 思わずは眉を寄せた。

 血塗れである。

「鈍重窮まる大技だけでは、千本桜を躱すことなど永劫叶わぬ。」

 が眉を寄せた。

(人間味のない奴だ… 可愛げがない…)

 言葉にはせず、心の中で毒付く。

「…はっ… はっ… …くそっ… …もうちょい、いけると思ったのによ…」

 細かい呼吸を繋ぎながら、一護が唸った。

「…やっぱり無理だったか… …そりゃそうだよな…」

 空気中を舞う千本桜。

 陽の光に照らされて、淡く輝いているように見える。

グ…

 一護が斬月を強く握った。

「こっちだけ始解のままで… 卍解に勝とうなんてのがナメた話だ…」

 白哉が眉を寄せた。

(? 何の挑発だ?)

 も首を傾げる。

「…言葉に気を付けろ、小僧。 まるで貴様が、卍解に至っていると言っているように聞こえる。」

 一護がゆっくり身を起こした。

「…ああ。」

 白哉を見据えたまま、細い笑みすら浮かべている。

「…そう言ってんだよ、朽木白哉!」


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