「…何だと…?」 心なしか、白哉の声は少し上擦っていた。 「…訊き返すなよ… …聞こえてんだろ。 それとも信じられねえだけか…?」 その自信は何だろう。 「二度も三度も言わねえぞ… 俺の言葉は信じられなくても…」 一護が顔を上げた。 真っ直ぐ、射抜くように白哉を睨み据える。 「てめえの眼なら信じられるだろ! 朽木白哉!!!」 白哉が目を見張った。 「しっかり見てけよ。 こいつが俺の ――― 卍解だ。」 は息を飲んだ。 空気が震える。 それに比例するように、一護の霊圧が膨れ上がって行く。 「おおおおおおおおおお!!!」 ガッ 強く踏み込んで。 ドン その霊圧を解放する。 「………」 が眉を寄せた。 実に、不思議な光景だ。 死神として頂点を極めた者のみに許される、斬魄刀戦術の最終奥義。 死神として、他と隔絶した超然たる霊圧を生まれ持つ四大貴族といえど、そこに至ることができる者は数世代に一人と言われ。 それを発現できた者は、一つの例外もなく尸魂界の歴史に永遠にその名を刻まれる。 それが卍解だ。 ビリッ 「…?」 一瞬、軽い痺れのようなものを感じた。 (何だ? どうした、月華?) この場が危険だと、斬魄刀がに伝えようとしているのだろうか。 (危険は承知の上… それでも…) この場で、この戦いを見届けたかった。 それが何故だかわからない。 「………」 この戦いは、きっと白哉にとっても一護にとっても必要な戦いだ。 この戦いを見届ければ… この胸騒ぎの理由がわかる気がする。 (…莫迦な。 こいつは何だ。) 徐々に霊圧の膨れ上がってゆく一護を、じぃっと見据える。 (此奴は、ルキアの力を喰らって死神となった。 貴族どころか、元来死神ですら無い。) 白哉は、胸中穏やかでいられなかった。 (それが何故、卍解などと容易く口にする?) 眉を寄せる。 (それが何故、こんな霊圧を放っている?) 一護の霊圧が、その辺り一帯に風を巻き起こしていた。 その生温い風に、白哉の髪が揺れる。 (これではまるで ――― ) ザアッ 一護が斬魄刀を真っ直ぐに構えたその一瞬。 その場の時間が止まったかのように思えた。 「卍解!」 刹那。 ド 白哉が指先をに向けた。 「!?」 一筋の光が、に向かって伸びる。 「バカ者! 私の心配よりも…!」 の声は、大きな轟音に遮られた。 ドウ 風が吹き荒れ、土煙が舞い上がる。 それは、白哉の卍解の比ではない。 吹き荒れる風の中、白哉は身動き一つせずに視界が晴れるのを待った。 は。 白哉の張った結界の中で、訝しそうに眉を寄せていた。 (バカ者…! 戦いの最中、高等結界を張ろうと無駄な霊力を使う奴がどこにいる!) 一護の卍解発動と同時に、自分に向かって伸びた光。 その正体は、外からの攻撃も中からの攻撃も受け付けぬ、高等結界。 (…私は… お前に護られなくとも大丈夫だ…) 白哉も馬鹿ではない。 一護の霊圧の大きさは、身に沁みて感じている筈だ。 土煙が徐々に晴れて行く。 白哉は目を見張った。 黒衣のマントのような一張羅… その右手に、収まっているのは真っ黒い一振りの刀。 まさか、あれが卍解だと言うのだろうか? 「『天鎖斬月』。」 それが名なのだろう。 一護が白哉を見据えた。 「 ――― 何だ …それは。」 白哉が目を丸くした。 「そんな小さなものが… 卍解… …だと…? ただの、斬魄刀ではないか…」 黒い刃の刀。 それは、一護が常時装備していた斬月よりもはるかに小さい。 白哉の霊圧が上がった。 「…成程… 極刑といい卍解といい、貴様はよほど我々の誇りを踏み躙るのを好むと見える…!」 戦い開始からしばらくして、本来の冷徹さを取り戻したように思えたが。 今の白哉は、かなり機嫌が悪い。 「ならばその身に刻んでやろう! 誇りを穢すということが、どういう報いを受けるのかをな!!」 ゴアッ 白哉の怒りに、千本桜が反応した。 と。 「!!」 が息を飲んだ。 (何だ… 今…!) 一瞬たりとも目を離さなかったのに。 一護はその場から姿を消して… 白哉の首筋にその漆黒の刃の切っ先を突き付けている。 白哉は息を飲んだ。 「 ――― どうもその『誇り』ってやつが、ルキアを殺すことと繋がってるみてえだな…」 一護が目を細める。 「…だったらあんたの言う通り、俺はそいつを踏み躙るぜ。」 ギリッと、強く刀の柄を握る。 「その為に、手に入れた卍解(ちから)だ!」 迷いの無い声。 それがの胸を打った。 |