(…白哉…!) 不安でならない。 これほど心が落ち着かないなんて初めてだ。 は結界の中で、何かに祈るように、その小さな手をぎゅっと握った。 白哉が眉を寄せた。 「…貴様、何故私の喉許から鋒を退いた。」 小さな黒い刀を手に、一護が白哉を睨み吸える。 「…余裕のつもりか。」 千本桜の刃が、風に乗って煌いた。 「…驕りは、勝利の足許をつき崩すぞ。」 冷ややかな声で、白哉が続ける。 「…今一度言おう。 貴様のそれは、卍解ではない。」 一護の掌に収まった、一振りの斬魄刀。 「そんな矮小な卍解などありはしない。」 黒い、刃。 「旅禍風情が、卍解に至ることなどありはしない。」 一護は眉一つ動かさずに、じっと白哉を見据えている。 「…悔いるがいい。 今の一撃で、私の喉を裂かなかったことをな。」 ザァ…ッ 空気が震えた。 「…奇跡は一度だ。」 オアッ 重い霊圧が、一護の体に圧し掛かる。 「二度は無いぞ、小僧!」 白哉が一護を睨み据えた。 ゴア 無数に別れた刃が、四方八方から一護に襲い掛かる。 ガン 岩が砕けた。 ザ ア ザ ザ ザァッ 一護はその刃を交わしながら、白哉との距離を縮めて行った。 ダン その懐に飛び込む。 ガン 振り下ろされた黒い刃は、宙を舞う千本桜に阻まれ、白哉には届かない。 (………) はその様子をじっと見ていた。 (…静と、動… まるで対照的な二人だ…) 一護は卍解を繰り出した後、目の回るような速さで執拗に動き回っている。 対する白哉は、その場から一歩も動いていない。 防御も攻撃も、白哉の意志で動く千本桜が兼ねている。 (………どこか、余力を残した戦いだな…) わずかに、眉を寄せた。 (…甘く見るのも大概にせぬと、足許を掬われるぞ… 白哉…) ザ ザ ザ 白哉は目を疑った。 (何だ、この速力は。) 白哉の攻撃は、まるで当たらない。 (千本桜が、追い切れぬだと!?) 当たらないどころか、一護の動きに翻弄されていた。 「!」 白哉が目を見張る。 「どうした、ついてこれねえか?」 一護が細く笑った。 「まだもうちょい、速くできるんだけどな。」 その声が、癪に障る。 「…余り図に乗るな、小僧!」 腕を振った。 オア (スピードが上がった!!) ザッ ドシャア 辛うじて、それを交わす。 千本桜は、手掌で操れば、速力は二倍。 (捉え切れぬものなど… 無い!!) 「!」 一護が息を飲んだ。 四方から囲まれた。 空中で、逃げ場はない。 (捉えた!) その瞬間に、白哉は勝利を確信した。 だが。 ガガガガガガ… 予想も出来なかった一護のその動きに、思わず目を疑う。 その小さな斬魄刀で、一護は全ての刃を叩き落したのだ。 (…莫迦な…) 白哉は言葉を探せない。 「奇跡は一度、だったよな。」 その声に、呼吸が止まった。 「じゃあ、二度目は何だ?」 背後に、一護が佇んでいる。 いつの間に、回り込まれたのだろう? 「! 白哉っ…!!」 は思わず叫んだ。 ドッ 黒い刃を突き刺す。 タタタッ その切先から、血が滴り落ちた。 ドン 一護の斬魄刀の、根元を掴んだ白哉の右手。 それに、血が滲んでいる。 (…無事か… バカ者、命が縮まったぞ…) がほっと胸を撫で下ろした。 「…そうか… 卍解としての戦力の全てを、その小さな形に凝縮する事で、卍解最大戦力での超速戦闘を可能にした…」 ポタッ ポタッ 掌から血が滴る。 「それこそが、貴様の卍解の能力(ちから)という訳か…」 白哉がわずかに唇を噛んだ。 「良かろう… ならばその力ごと… 全て圧し潰してくれる!!!」 |