ガンッ 振り下ろされた、黒い刃。 それを、白哉の白い刃が受けた。 ぎゅっと、の小さな手が。 自分を抱き締める白哉の裾を強く握った。 一瞬。 背後の殺気に、胸を一突きにされたかのような、そんな錯覚を感じた。 それが現実となる前に、白哉の腕に抱き込まれるように体を引かれた。 驚きのあまり動けずにいた。 白哉に体を引かれなければ、そのまま一護に斬られただろう。 束の間、呼吸を忘れた。 信じられなかった。 突然跳ね上がった霊圧、それはとても邪悪な物で。 そうだと信じたくなかったが、怖くて振り返る事も出来ない。 まるで、自分の周りだけ、時が止まったかのようだ。 ドドドドド… 激しく脈打つ何か。 それが自分のものなのか、白哉のものなのか… それとも別の物なのかわからない。 「はっ… はっ… は、っ…」 呼吸を繋ぐ事すら難しかった。 「…気を確かに持て、…」 グッと、白哉がその体を強く抱いた。 「…何者だ、貴様…」 小刻みに震える小さな体を強く抱き締めて、白哉が眉を寄せる。 「"何者だ"…? はっ!」 それは笑った。 「名前なんか無えよ!!」 それが一言言葉を発する度に、邪悪な霊圧がビシバシ飛んで来る。 ギリギリ… 白哉が眉を寄せた。 片手では、競り負けそうだ。 「…行け…」 その声に、腕の中のが強張ったのがわかった。 「…行け…!!」 「…っつ…!!」 がきつく唇を噛んだ。 白哉の腕から。 そして、その場から一瞬で離れる。 次の瞬間。 ガッ 白い刃が、その邪悪な霊圧に砕かれた。 ドン 白哉の体… 右肩から腹にかけて、稲妻のような衝撃が駆け抜けた。 ビュン 突風が吹いた。 「きゃああ!」 「うわっ!」 井上織姫と、石田が短い悲鳴を上げる。 「な、何だ!? 今、何かが通ったような…」 岩鷲が首を傾げる。 「…!」 やちるが呟いた。 「え? あ、やちるちゃん!」 草鹿やちるが、その風を追って駆け出した。 「行くぜぇ!!!」 双極の丘の麓に広がる森の一角。 斑目一角の声が響いた。 ビュン 対峙した一角と射場の間を、突風が吹き抜けた。 「どわっ!」 突然の衝撃に、一角がひっくり返る。 「な、何だ、今… のっ!?」 ガン 起き上がった直後の一角の頭を、何かが直撃した。 ベチッ。 一角の頭にぶつかって、その場に転んだのは。 「草鹿副隊長やないけぇ…」 射場が眉を寄せた。 「あ〜、てめえ…」 一角が頬を引く付かせた。 「俺らの喧嘩邪魔したあげくに、思いっきりぶつかって来るとはいい度胸じゃねえか〜…」 地面に突っ伏したまま起き上がらないやちるを、思い切り睨みつける。 「覚悟は、出来てんだろうなぁ〜…」 「待て、一角。 様子がおかし…」 射場がその側により、斬魄刀に鞘でひょいとやちるの体を持ち上げた。 「「!?」」 二人は目を疑った。 「一角!! 泣かすな!」 射場が怒鳴る。 「俺じゃねえ! 泣きたいのはこっちだ!!」 ぼろぼろと、やちるは泣きじゃくっている。 「…〜…!」 「あ?」 やちるの口から出た名前に、一角が反応した。 「ひっく、 っく… 〜…!」 聞き間違いではない。 やちるは確かに、と言っている。 「…が、どうした?」 一角が眉を寄せる。 「っ… っく… どっか行っちゃうよぉ〜… やだぁ…!!」 うわーん 一角と射場は顔を見合わせて首を傾げた。 何が起きたのか全くわからないが、やちるが大泣きしている。 (…第六感とでも言うのか…) やちるの勘は良く当たる。 (…) 一角がわずかに拳を強く握った。 |