ガタッ 転がり込んだ。 「はっ… はっ… は、っ…」 グッと、その場に蹲った自分の体を抱き締める。 「鎮、まれ…!」 肩で呼吸を繋ぎながら、まるで何かに縋るかのように声を上げる。 「鎮まれっ…!!」 きつく、唇を噛む。 「消えろ! 消えてなくなれ…!!!」 封霊主の間に、風が吹き荒れる。 この場所は、尸魂界の最下層。 霊気を遮断する結界が張られていると言うのに、それは全く役割を果たしていない。 「うわぁあああぁあああ!!!」 ドッ 懐に忍ばせておいた短刀で、左手の甲を貫いた。 血が溢れる。 「はぁ… はぁ… は、ぁ…」 ドクドクと、溢れる血をじっと見て… やっと、少し落ち着いた。 真っ赤な手に濡れた、小さな手。 「…醜い…っ…!」 が吐き捨てるように呟いた。 今まで、どれだけの血に染まって来たのだろう。 強く、唇を噛んだ。 血に染まる手は、己の物だけでいい。 白哉の手は汚したくなかった。 それなのに。 ――― 「イチゴ… 奴は、一体…」 は眉を寄せた。 先程の霊圧。 あれは、間違いなく虚の物。 (ただの魂魄の筈だ。 ただの人間の魂魄… いや、待てよ…) 「…黒崎………」 黒崎の性。 (真血か…? だが、それだけでは…) 『師は誰だ、一護。』 『十日ほど教わっただけだから… 師と呼べるかどうかはわかんねえけど… 戦いを教えてくれた人ならいる。』 『誰だ?』 一護は確かにこう答えた。 『浦原喜助。』 グッと、強く拳を握った。 他でもない、浦原が関わっている。 おそらく命の局面に立たされて、内なる虚が現れたのだろう。 唇を噛んだ。 (白哉… ――― !) ガシャ 砕かれた牽星箝が、地に落ちる。 「 ――― この霊圧の感触… その仮面………」 ポタッ 血が滴る。 「貴様… …虚か…!」 白哉が眉を寄せた。 「さァな。 知る必要は無えさ。」 冷たい瞳が、白哉を見据える。 「てめえはこれで ――― 」 ガッ その手が、己の顔を覆う仮面にかかった。 突然のそれの行動に、白哉が目を見張る。 「ぐ…!? く… くそッ! 放せ…ッ!」 それが眉を寄せた。 ベキィ ビキッ 内から響く声。 「邪魔はてめえだ、放せ!!!」 ゴキ… バキッ パリン 仮面を剥ごうと、その手が動く。 「このまま俺にやらせりゃ… 勝てるってのが判んねえのか!!!」 それは、苦々しく吐き捨てる。 「くそッ!! くそっ!! バカが…ッ!! あぁあああぁあああああああ!!!!!」 バキン その顔から、面が外された。 バラバラッ 砕けた面の欠片が、地に落ちる。 「はっ、はっ、はっ、はっ… はっ…」 肩で息を吐いて、顔を上げた。 「…ふぅっ!」 一護である。 白哉が目を丸くした。 「…悪りーな、邪魔が入っちまってよ…」 その声に、白哉が目を丸くする。 一護が構えた。 「…さァ… 仕切り直しといこうぜ!」 自信に溢れた、つい先程までは耳障りでしかならなかったその声。 ( ――― 邪魔 ――― ) 白哉が眉を寄せた。 ( ――― そうか… あの姿のまま戦って私を幾ら斬ろうとも… それは貴様の本意では無いということか………) ザァ…ッ 潔いと言うか、バカ正直と言うか… 何故、がこの少年と行動を共にしたか。 その理由が、少しだけ判った気がする。 「 ――― 良かろう。」 風に、白哉の髪が揺れた。 「…今の姿が何であったかは問うまい。」 まっすぐに、一護を見据える。 自分と同じくらい、血塗れでぼろぼろだ。 「…お互い、最早何度も剣を振るう力は残ってはいまい。」 ガシャっと、一護が強く斬魄刀の柄を握った。 「次の一撃で、幕だ。」 「ああ。」 二人の頬を撫でる風は柔らかい。 「…なぁ…」 一護が、躊躇いがちに口を利いた。 「…は…?」 己ではない、もう一人の自分。 それは、一護の意志に反して、を斬ろうとした。 「案ずるな、無事だ。」 白哉が答えた。 「…私の前では、アレには傷一つ付けさせぬ。」 一護が目を細めた。 「…あんた… の話をする時は… なんつーか… 空気が優しいよな…」 「………」 白哉は答えない。 一護が小さく息を吐いた。 「…最後に… もう一回だけ、訊いていいか?」 の話をする時の白哉は、とても優しい。 愛情と言う感情が欠けていると言う訳ではなさそうだ。 「あんたは… どうしてルキアを助けねえんだ。」 義理と言えど、養子に迎え入れた妹である。 への愛情のように、ルキアも… 大切にしてやれるはずだ。 「…兄が私を斃せたなら… その問いにも答えよう。」 「…ちぇっ。」 一護は子供のように眉を寄せた。 「千本桜景厳 ――― …」 フオ… 白哉の声に答えるように、千本桜が姿を変える。 「終景・白帝剣。」 キ…ン 白い刃が、白哉の体を包み込むように護っている。 「…凄えな。」 正直な感想である。 一護は感心したように呟いた。 「悪いけど俺は、そんなスゲー技は無えぞ。」 強く、斬魄刀の柄を握った。 「斬月が教えてくれたのは、月牙天衝一つだけ ――― 俺にできるのはもう、一つの斬撃に… 全ての霊圧を込めることだけだ。」 空気が震える。 「 ――― いくぜ…」 一護の声に答えるように、黒い霊圧が迸った。 「朽木白哉!!!!」 戦いの決着を付けるため。 何度目か判らない、黒と白の刃がぶつかった。 |