ドドドドド… ぶつかった霊圧が、渦を巻く。 白哉と一護。 二人共、まだそこに立っていた。 バン 先に血が噴き出したのは、一護だった。 その肩から背中から、勢い良く血が溢れる。 目の前が揺れた。 ドッ 斬魄刀を地に突き刺し、それで体を支えた。 ババババッ 鮮やかな紅が舞う。 (倒れねえ…ッ!!) 歯を食い縛った。 バンッ 白哉は、胸から腹にかけて血が噴き出した。 グラァ… ザン 倒れそうになるのを、一歩強く踏み出す事で堪えた。 バババッ 一護に負けず劣らず、血が滴る。 一度息を吐いて、じっと掌を見据えた。 黒と白。 その刃が交わった時。 白哉の白い刃は、黒い刃に砕かれ、花びらとして散った。 グッと、強く拳を握る。 「…知りたがっていたな… …私が、ルキアを殺す理由を。」 突然の声に、一護が振り返った。 「罪あるものは裁かれねばならぬ。 刑が決すれば処さねばならぬ。 それが掟だからだ。」 凛とした声。 一護が眉を寄せた。 「…掟だから… …殺すのかよ。 てめえの妹でも…」 「…肉親の情か。 …下らぬ。」 答える白哉の声は、冷ややかだ。 「何… …だと…?」 一護は息を飲んだ。 「掟に比すれば、あらゆる感情に価値など無い。」 白哉が一度、目を伏せた。 「…そんな下らぬ感情は… あの時に全て捨てたのだ…」 どんなに抗っても、尸魂界が下した裁定は覆ることはない。 中央四十六室の命令は絶対。 それを破ろうとすれば、それなりの罰をその身に受ける事になる。 万人に平等に、その罰は下される。 四大貴族の一角を担う朽木家の次期当主であった白哉は… 一度だけ罪を犯し、投獄されていた事があった。 「…あの時…?」 一護が首を傾げた。 「…私は、以前… 掟を破り… 獄中で過ごしていた事がある…」 目を閉じる。 「…だが、その事実に後悔はない。 ただ… その姿に、父母が胸を痛めた。」 ゆっくりと、目を開けた。 「私は…」 グッと、白哉が拳を強く握った。 「私は、二度と掟を破るまいと誓ったのだ…」 護りたい者も、もういない。 だから、掟を破る理由も必要もない。 そう思った。 そう思っていた。 「それ… 絡みじゃねえのか?」 一護が眉を寄せた。 「………」 じっと白哉を見据えるが、白哉は何も言わなかった。 「答えろよ。 あんた、処刑されるのがだったら… それでも、掟だからって殺すのか?」 一護の声が耳に痛い。 白哉は目を伏せた。 「そうだ。」 驚く一護を他所に、言葉を続ける。 「だから… アレは封印された… 私は一度、アレを捨てたのだ…」 他の誰にでもない、自分自身への戒めの言葉。 「…何でだよ…」 一護の声が震えた。 「掟って…! そんなに大事なのかよ!? は、あんたの一番護りたいもんじゃねえのかよ!?」 何故だろう、叫ばずにはいられなかった。 「…我が朽木家は、四大貴族の一。 全ての死神の軌範とならねばならぬ存在。」 一護の声には答えなかった。 「我等が掟を守らずとして、誰が掟を守るというのだ。」 白哉の声に、一護が目を丸くした。 「…悪い… …やっぱり俺にはわかんねえや…」 きっと、自分が白哉と同じ立場だったなら… 「やっぱり俺は、掟と戦うと思う。」 まっすぐな、声。 一護に、ある男の面影が見えた。 白哉が目を細める。 (そうか。 此奴の敵は最初から、私などではなかった。) 一護は、尸魂界の掟と戦っていたのだ。 (似ている。 その奔放さが疎ましかったあの男に。) 「…黒崎一護。」 風に、白哉の髪が揺れた。 「私の刀は… …貴様の奔放さに砕かれた。」 踵を返して歩き出す。 「私は最早、ルキアを追わぬ。」 視線だけを、一護へ投げた。 「この勝負、兄の勝ちだ。」 ザン その言葉を残して、白哉は消えた。 それまでの執拗さが嘘だったかのように、あまりにあっさり去った。 「勝った…?」 信じられなかった。 「…勝ったぞ…」 グッと、一護が斬魄刀の柄を握る。 「俺の勝ちだ!!!!」 晴れ渡る青い空の下。 一護の声が響いた。 |